2025年6月3日
会員著書案内著者名 | 署名 | 出版社 | 出版年 |
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サウンディングズ英語英米文学会監修/杉野健太郎・下楠昌哉編 | 『スポーツする英語文学』 | 金星堂 | 2025年 |
【梗概】
人類にとって現代ほどスポーツが大きな存在になった時代はかつてなかった。現代においてスポーツは、人々の生活に深く浸透している。では、それはいつどこから始まったのだろうか。議論の余地はあろうが、その起源は19世紀のイギリスにある。近代スポーツが始まったのは、18世紀末の産業革命の発生および市民階級の誕生を経た19世紀中葉のイギリスにおいてである。現代において盛んなスポーツの多くがイギリス起源さらには同じ英語圏のアメリカ起源であることがその証左となっているとも言えるだろう。この時期の近代スポーツの形成と発展において大きな役割を果たしたのは、イングランドの中等教育機関、当時ラグビー校のトマス・アーノルド(マシュー・アーノルドの父)の学校改革が影響を与えていたパブリック・スクールであり、キリスト教徒は精神だけでなく身体も強健であるべきことを主旨とする筋肉的キリスト教(muscular Christianity)というイデオロギーをチャールズ・キングズリーやトマス・ヒューズの著作が広めた。19世紀末以降、植民地主義やオリンピックなどの国際大会などとともにスポーツが国際化・グローバル化し、大衆社会の誕生によってスポーツが大衆化し、女性やマイノリティのスポーツへの進出が拡大し、プロ化・商業化が進み、マス・メディアがスポーツを伝え、eスポーツが登場したのが現在までのおおまかな流れだろう。
さて、スポーツは、文学とりわけ19世紀以降の英語文学にとっても大きな存在であり続けている。本書は、19世紀から21世紀に至る英語文学作品における近代スポーツというテーマを時代順に扱う。ホイットマン、フォースター、キャロル、ジョイス、フィッツジェラルド、ボンタン、ウィリアムズ、オオツカ、19世紀から21世紀に至る英語文学におけるスポーツ――クリケット、水泳、ゴルフ、サイクリング、柔道、ポロ、野球、サッカー、アメリカン・フットボール、クリケット、競馬・・・――を論じる。
【目次】
はじめに
第1章 ギリシア式トレーニング、ギリシア的愛──ヴィクトリア時代のアスレティシズムとホイットマン受容の交差地点(町本 亮大)
第2章 海辺の少女――ルイス・キャロル『不思議の国のアリス』における水浴と水泳(桐山 恵子)
第3章 E・M・フォースターとスポーツ――青少年たちと帝国主義(中村 美帆子)
第4章 ジェイムズ・ジョイス作品にみる自転車に乗る女性たち(田中 恵理)
第5章 ジェイムズ・ジョイス『ユリシーズ』における柔術幻想――20世紀初頭の英米での柔術をめぐる言説とイメージを踏まえて
(下楠 昌哉)
第6章 F・スコット・フィッツジェラルドとスポーツ――『グレート・ギャツビー』と「スイマーズ」を中心に(杉野 健太郎)
第7章 アフリカ系アメリカ文学における「スポーツ」――アーナ・ボンタン『神が日曜日をくださった』を中心に(佐々木 優)
第8章 〈チーム〉の彼方へ――テネシー・ウィリアムズ『やけたトタン屋根の上の猫』再読(相原 直美)
第9章 アメリカ文学と水泳――ジュリー・オオツカ『スイマーズ』を F・スコット・フィッツジェラルドの同タイトル短編と比べて読む
(村山 瑞穂)
あとがき
執筆者紹介
索引