2025年10月21日
会員著書案内| 著者名 | 署名 | 出版社 | 出版年 |
|---|---|---|---|
| 日本スペンサー協会編 | 『スペンサー・ハンドブック―詩人と作品ガイド』 | 開文社 | 2025年 |
【梗概】
本書は、16世紀後半のイングランド詩人エドマンド・スペンサー(1552?‒99)及びその作品について学ぶ人のための概説書である。刊行にあたっては、スペンサーの生涯と時代背景、韻文及び散文の全作品の概要、そして今日に至るまでの評価や影響、日本における受容の歴史について初学者にもわかりやすく紹介するとともに、ある程度の知識、知見を有するスペンサー研究者にとっても有用な一定の学術的水準を保つことに意を用いた。
本書の構成を概観すると、第一部では、スペンサーが生きたエリザベス朝の時代背景について、作品中にもその影響が濃く表れている政治と宗教に焦点をあてて解説し、同時代の詩人たちの活動を俯瞰したうえで、スペンサーの生涯を、決して多くはない伝記史料と作品中に散見される詩人の「自分語り」―それは必然的に虚構性をまとう―を手掛かりとして再構築を試みている。
続く第二部は作品案内である。処女作『羊飼いの暦』から『妖精の女王』等の主要作品は勿論、『コリン・クラウト故郷へ帰る』、『プロサレイミオン』など我が国でも比較的流布している小品に加え、あまり知られていないものも含めた全ての小品、そして、新歴史主義批評の台頭以降ますます重要度を増している散文作品(『書簡集』及び『アイルランドの状況に関する見解』)まで、現存のスペンサー作品を全て取り上げ、各々の概要を示すとともに、読者の作品理解に役立つよう、伝統的な解釈から現代批評理論を援用した新たな読み方まで、難解にならぬ程度にほどよく示している。
第三部は、スペンサー作品が後世400年以上にわたっていかなる文学的影響を与え、また、後世からどのような評価を受けてきたのかについて、時系列に沿いながら解説を試みるとともに、我が国におけるスペンサー作品の受容と翻訳、研究の歴史をまとめている。
さらに第四部は、スペンサーを論じるうえで参照すべき数ある研究書、参考書の中から、初学者にも理解しやすくかつ重要なものを数十点選定し、簡潔な解説を付して提示している。
英米等海外においては、スペンサーに関するこの種のハンドブックは何種類も出版され、スペンサー研究の標準的案内役となっている。スペンサーの名は幕末に初めて我が国に伝えられ、明治以来その研究が受け継がれてきたが、今般、我が国においてもスペンサーに関する総合的なハンドブックを初めて刊行できたことは、我が国におけるスペンサー研究の進展と充実を示すものであり、先達の学恩に報いるとともに、新たな読者、研究者を得て今後さらに裾野を広げていく道標となることを祈念してやまない。
【目次】
序(水野眞理)
第一部 時代背景とスペンサーの生涯
エリザベス朝の時代背景——政治と宗教(竹村はるみ)
スペンサーと同時代の詩人たち(村里好俊)
スペンサーの生涯(竹村はるみ)
第二部 作品案内
『羊飼いの暦』(水野眞理)
『妖精の女王』(大野雅子、笹川渉)
『アモレッティと祝婚歌』(岩永弘人)
『四つの賛歌』(足達賀代子)
小品(村里好俊)
散文(水野眞理)
第三部 受容史
文学的影響(一七―一八世紀)(佐々木和貴)
批評史(一九世紀以降)(笹川渉)
日本におけるスペンサー研究史・翻訳史(根本泉)
第四部 初学者のための必読書案内
年譜
エドマンド・スペンサー作品一覧
索引
執筆者紹介