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2023年5月26日

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著者名 書名 出版社 出版年
惣谷美智子・新野緑 編著 『オースティンとエリオット:〈深遠なる関係〉の謎を探る』 春風社 2023


【梗概】
 本書は、2021年12月11日にオンラインで開催された日本オースティン協会と日本ジョージ・エリオット協会の合同大会でのシンポジウム「『深遠なる重要性を帯びた影響』——その探求の魅惑」(司会:惣谷美智子、講師:川津雅江、土井良子、永井容子、新野緑)と講演「ジョージ・エリオットはジェイン・オースティンから何を受け継いだのか?——『ミドルマーチ』における〈分別〉と〈多感〉」(廣野由美子)を加筆修正し、再構築したものである。
 タイトルにある〈深遠なる関係〉は、F. R. リーヴィスの著『偉大な伝統:ジョージ・エリオット、ヘンリ・ジェイムズ、ジョセフ・コンラッド』の中の言葉「深遠なる重要性を帯びた影響」からきている。彼は、オースティンの影響が後に続く作家たちに受け継がれていくさまをそのように表現したのだが、興味深いのは、リーヴィス自身がオースティンとエリオットの影響関係を強く主張しながらも、示唆するに留めていることである。リーヴィスによれば「オースティンについてはかなりの長さをもった研究を要する」のだが、彼のその「研究」はついぞ現れることはない。こうした空白が帯びる謎は否応なく読者を多義的な解釈へと向かわせるだろう。本書においても謎は、執筆者の専門、興味、関心に引き取られ、議論は縦横に拡がる。

第1章 (川津雅江) は、オースティンとエリオットを、イギリス女性運動史の起点であるウルストンクラフトの継承者と見なし、当時の女性の社会的地位や財産、職種などについての歴史的文化的知見を駆使しながら、『エマ』と『ミドルマーチ』における女性の教育と経済的自立の関係を論じる。

第2章 (土井良子) は、オースティンの初期作品の特徴とその変容の過程を辿り、先行作品をパロディ化した初期作品が、円熟期の写実的な長編小説と実は通底することを示し、またスコットの歴史小説の模倣から創作を始めたエリオットが、処女作「エイモス・バートン師の悲運」で、オースティンの『高慢と偏見』を模倣しつつ独自の小説を構築した可能性を検討する。

第3章 (永井容子) は、男性作家が主導権を握る当時の文壇において、女性が匿名や偽名を用いて書くことの意味を考え、同時に『エマ』と『ミドルマーチ』に共通する多角的かつ多重的な視点が、世界の捉えどころのなさを許容する二人の作家の匿名性のあり方に、いかに密接に関わっているかを考察する。

第4章 (新野緑) は、ともに〈見誤り〉をテーマとする『エマ』と『ミドルマーチ』の小説構造の類似と差異を詳細に分析し、非情なコミュニティの逃れられない一員としてその誤謬に満ちた視点を容認する『ミドルマーチ』が、「笑い」がもたらす判断停止によって認識のアポリアからの解放を求めたオースティンへの批判的読みの産物でもあれば、密かなオマージュでもあることを示す。

第5章 (惣谷美智子) は、オースティンとエリオットの成熟期の作品の、書き出しから結末部に至る語りの形態の変化とその効果に焦点を当てる。一見対照的とも思える両作家が、ともに共感と心理的ディタッチ距離メントというヤヌス的視点によって産出する「空白」は、読者を現代的な読みの(不)可能性へと誘うと論じる。

第6章(廣野由美子)は、『分別と多感』のエリナとメアリアン、さらに両者を統合する形で〈多感〉から〈分別〉へと推移する『ミドルマーチ』のドロシアとを克明に比較し、二つの対立概念が危ういバランスを獲得していく様を諷刺とユーモアを交えて描き出すエリオットに、オースティンに通じる「イギリス的なるもの」の継承者の姿を見る。


【目次】

はしがき
第1章「女性の教育と生活の資——オースティンとエリオットにおけるウルストンクラフトの遺産——」(川津雅江)
第2章「少女は小説家の母である——初期作品からみるジェイン・オースティンとジョージ・エリオット——」(土井良子)
第3章「ジェイン・オースティンとジョージ・エリオット——匿名性と作品を取り巻く『視点』——」(永井容子)
第4章「〈見誤り〉の悲劇/喜劇——『エマ』と『ミドルマーチ』——」(新野緑)
第5章「『説得』と『ミドルマーチ』——『はじまり』と『終わり』の狭間で——」(惣谷美智子)
第6章「エリオットはオースティンから何を受け継いだのか?——『ミドルマーチ』における〈分別〉と〈多感〉——」(廣野由美子)
あとがき
執筆者紹介
索引


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