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2025年6月27日

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著者名 署名 出版社 出版年
松本靖彦・西山けい子編著 『響きあうポーとディケンズ』 春風社 2025年

【梗概】
 本書はエドガー・アラン・ポーとチャールズ・ディケンズの比較研究の試みである。
 第一章では、松本靖彦がポーディケンズを結びつける三羽の鴉たちの来歴を扱う。一羽目はディケンズ作品に登場する鴉。二羽目がポーの「大鴉」。そして、両者間の奇縁を体現した実在の「死なない」鴉(これが三羽目)も登場する。
 第二章では、ポー(デュパン)の推理に特徴的な思考法の存在を看取した渡部智也が、その思考様式に基づいてポーとディケンズの謎解きを比較する。そして、ポーによる推理ミスとディケンズの探偵による推理ミス、それぞれの背景を読み解くことで彼らの文学の魅力を解析していく。
 第三章:「ポーは(アメリカ)社会とは没交渉であり、その文学的特質は〈ディタッチメント〉である」という固定観念が、これまで批評や風刺というジャンルでポーと(社会改良に対する意識の高かった)ディケンズとの比較を妨げてきたのではないか。そのような問題意識から福島祥一郎は、両者のアメリカ大衆への批判的まなざしを見据えることにより、これまでとは一風違ったふたりの間の距離感を浮かび上がらせている。
 第四章:ポーの「黒猫」や「告げ口心臓」とディケンズ作品との間には影響関係や共通点がみられることが指摘されてきた。それらポーとディケンズの文学的接点といえるテクストの精緻な再検討を通して、西山けい子は、どのようにしてポーがディケンズから学びつつも彼独自の短編小説技法を築き上げていったか例証してみせ、最終的にそれぞれの強みと魅力に改めて光をあてる。
 第五章:ディケンズが生涯実によく歩く人であり、彼のロンドン描写は少年時代からの実体験に基づいていたことが知られている。そして、ディケンズが描いたロンドンの、特に夜の情景に強く魅せられていたのがポーである。松本靖彦は、ロンドンの夜歩きを鍵として、ポーとディケンズが互いにどう関わっていたか考察し、両者が文学史上の歩みを共にしていた可能性を示す。
 第六章:岡本晃幸は、あるポー作品には紛れもないフランス革命表象が散りばめられていることを丁寧に例証してみせたうえで、その作品とディケンズ作品にみられる(暴力)革命表象とを比較している。岡本の議論はやがて(群衆の)狂気がどこから来ているかという問いの考察に収斂していき、最終的にはポーとディケンズの人間観の分析に帰結していく。
 第七章:幽霊や怪奇を軸にディケンズとポーを比較するにあたり、橋野朋子はまず十九世紀前半の英米での心霊主義ならびに(メスメリズム、骨相学などの)疑似科学の流行に触れる。そして、ディケンズとポーが超常現象を合理的に解釈しようとする当時の文化的一潮流を共有していたことをおさえたうえで、幽霊に対する合理主義的態度や、怪奇を実証的に描写する態度をそれぞれの作品からあぶり出していく。
 第八章:ポーには、ドタバタ喜劇(ファルス)的なものも含め、滑稽さやユーモアが濃厚な作品もある。それらの分析を通して西山は、ポー的ユーモアが単に人間の有限性を露呈させるのではなく、人間存在の限界を突き抜けることによって生まれていることを理論的に解き明かしたうえで、その特質に照らし合わせながら、ポーとディケンズそれぞれの作品における笑いの仕組みを丁寧に解析していく。

【目次】
はじめに(松本靖彦)
目次
凡例
第一章 鴉、鴉、鴉―ポーとディケンズ、濡れ羽色の縁(松本靖彦)
第二章 謎解きは書評の後で―ディケンズとポーの「謎を解く」(渡部智也)
第三章 アメリカ社会と大衆へのまなざし―ポーとディケンズの批評・風刺(福島祥一郎)
第四章 短編小説の技法―ポーがディケンズから学んだこと(西山けい子)
第五章 ポーとディケンズの夜歩き―「群集の人」と「夜の散策」(松本靖彦)
第六章 狂人の革命を描く―ポーとディケンズの作品におけるフランス革命(岡本晃幸)
第七章 ディケンズとポーにおける幽霊、怪奇―視覚的錯覚と合理性(橋野朋子)
第八章 死体とユーモア―ポーとディケンズにおける無気味と笑いの交差(西山けい子)
あとがき(松本靖彦・西山けい子)
初出一覧
関連年表
索引
著者紹介

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