2026年4月15日
会員著書案内| 著者名 | 書名 | 出版社 | 出版年 |
|---|---|---|---|
| 金子幸男 | 『英文学・風俗画にみる田舎のイングリッシュネス 一九世紀のカントリーハウスとコテッジというホーム』 | 小鳥遊書房 | 2026 |
【梗概】
二〇二〇年一月三一日、歴史的なEU離脱は達成されたが、イングランドとウェールズは離脱、スコットランドと北アイルランドは残留と投票行動に差が現れ、統合と分断の問題があらわになった。振り返れば一九世紀はイギリス帝国全盛期で四地域を統合するブリテンが前景化していたが、二〇世紀になり、帝国の衰退と終焉、新自由主義とグローバリズムの台頭、EU加盟、四地域への権限移譲、スコットランド独立を問う国民投票、移民増加への反発など連合王国を不安定化する力が作用してきた。そのような状況下、イングリッシュネス/ブリティッシュネスを再定義する必要が生じてきた。
このような問題意識のもと本書は「イングリッシュネス」、「イングリッシュ・ナショナル・アイデンティティ」をテーマとし、序章において「ホーム」という概念を導入し論じてゆく。ホームはナショナル・アイデンティティ分析になくてはならぬ幅広い概念であり、家、村、地域から故郷、故国までをカバーする。また扱う時代は一九世紀ヴィクトリア朝から二〇世紀初頭、場所は南部イングランドの田舎である。後者をウェセックスと呼びホームとして描いた作家トマス・ハーディを中心におき、序章では同地域を描いた詩人・エッセイストのエドワード・トマスや小説家フローラ・トンプソンを論じる。
本書はイングランドの田舎を表象するアイコンとしてカントリーハウスとコテッジという二種類の住まい/ホームに着目する。前者は、貴族、ジェントリーといった上流階級が住む大きな屋敷で、周囲に広大なパーク(猟園)が広がっている。後者は身分の低い者が住む茅葺のあばら家である。このカントリーハウスとコテッジが、南部イングランドを舞台にした小説家トマス・ハーディにおいてどのように表象されているかを本書は一章、二章、三章で考察する。ハーディにおいてカントリーハウスは衰退の途上にあり、農場などがそれに取って替わるイングリッシュな建物として描かれる。第三章のコテッジ論では、コテッジの歴史を概観し、その厳しい生活面とピクチャレスクな美的側面を農村共同体の変容の中でみてゆく。ハーディに加えて農業ジャーナリストのジョージ・スタート、田舎を描いたサー・ジョージ・クラウゼン等の風俗画家、および世紀末に人気を博したヘレン・アリンガムとマイルズ・バーケット・フォスターのコテッジ画にも目を向ける。
四章でハーディの小説『ダーバヴィル家のテス』(一八九一)をストーンヘンジという国民的遺産とホームの観点から、また五章ではハーディよりも一世代前の女性小説家ジョージ・エリオットの小説『サイラス・マーナー』(一八六一)についてコテッジ・イングリッシュネスと老人表象という視点から詳細な作品分析をする。終章では、二〇世紀のその後のカントリーハウスとコテッジ表象の行方をみてゆく。前者については衰退と希望をみる小説があり、八〇年代に国民的遺産として復活する。また後者に対するピクチャレスクな趣味は一九世紀以来、持続する。
【目次】
はじめに 十九世紀イングリッシュネスと田舎
序章 ブリティッシュネスからイングリッシュネスへ イングランドの田舎というホーム 一八七〇―一九一四
一.基礎的な考察
二.ブリティッシュネスからイングリッシュネスへ
三.南部イングランドを描いた作家――エドワード・トマスとフローラ・トンプソン
四.本書の構造
第一章 ホームとイングリッシュネス――ハーディ小説におけるカントリーハウスの衰退
序
一.ヴィクトリア朝、エドワード朝カントリーハウスと上流階級の状況
二.作品分析
結論
第二章 カントリーハウスに代わるホーム――農場、地方の町、太古の自然
序
一.農場とイングリッシュネス――『緑樹の陰で』、『はるか狂乱の群れを離れて』、『ダーバヴィル家のテス』におけるホーム
二.中世/近代の建物とイングリッシュネス――『日陰者ジュード』におけるホーム
三.『帰郷』におけるエグドン・ヒース――ホームと歴史的記憶
結論
第三章 一九世紀イングランド農村の変容するコテッジ・イングリッシュネス――田舎の風俗画、トマス・ハーディ、ジョージ・スタート展望
序
一.コテッジの歴史概観
二.コテッジ画と農村風景画の世界
三.ハーディの小説『緑樹の陰で』における美徳を備えた家庭
四.ダービーフィールド家のコテッジ
五.「田舎者」(ホッジ)の否定――乳しぼり女たち
六.ジョージ・スタートとベッツワースの世界
七.ヘンリー・ラ・サングとジョージ・クラウゼンの世界
結論
第四章 『テス』におけるホームの記憶――ストーンヘンジとイングリッシュネス
序
一.ストーンへンジ―歴史、ハーディと考古学、発掘
二.神話的・宗教的な記憶の場としてのストーンへンジ
三.ネイションという「記憶の共同体」とストーンヘンジ
四.テスと個人の記憶・日付
結論
第五章 コテッジ・イングリッシュネス――『サイラス・マーナー』における老人表象
序
一.コテッジの社会的機能と媒介としての共感
二.コテッジ・イングリッシュネス
三.ラヴィロー村と赤屋敷
四.サイラスのコテッジ
五.サイラスとヴィクトリア朝の老人
結論
終章 カントリーハウスとコテッジの過去・現在・未来
一.各章の要約
二.カントリーハウスとコテッジのその後
註
引用文献
書誌的註
あとがき
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図版出典一覧
索引