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2026年3月24日

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著者名 書名 出版社 出版年
岩清水 由美子 『ジョウゼフ・コンラッドと女たち――伝記からフィクションへ』 英宝社 2026

【梗概】
 コンラッドは、これまで「男の世界」を描いた男らしい作家と見なされてきた。これは、コンラッドが多くの海洋小説や冒険小説の伝統に連なる小説を書き、そのような作品で広く知られているためであろう。確かに、海や船の世界を舞台とした「青春」「台風」「ナーシサス号の黒人」「陰影線」では、女性の存在しない男だけの世界が展開される。また、『闇の奥』や『ロード・ジム』でも前景で描かれるのは男同士の関係であり、「男の世界」を描いた小説と見なされている。そしてこのようなレッテルは、女性についてあまり書かなかった、女性に疎遠な作家というイメージを作り上げてきた。つまり、コンラッドは「男の世界」だけを描いた男らしい作家、即ち女性の苦手な「ミソジニスト」の作家と見なされてきた。
 さらに、このような作品世界から受けるイメージは、伝記的側面からも強化されてきた。コンラッドは少年時代に両親を亡くした後十六才で船乗りを目指し、フランスでの海員生活を経てイギリスの海員となっているように、作家になる前に約二十年間に渡る海員生活を経験しているからである。処女作『オールメイヤーの阿呆宮』で作家に転身するまでは、東南アジアやオーストラリアなどを航海し、船員として世界各地を旅した経験は彼の小説に「男らしい」素材を提供している。
 その生い立ちを見ると、コンラッドは七才の時母エヴェリーナを亡くしている。また、およそ二十年間にわたって船員として過ごしたことから、女性不在の世界での生活が長期間続いている。ジェシーと結婚したのは、三十代半ばを過ぎてからであった。このように見ると、女性と過ごした時間は比較的短かったよう思える。しかしながら、コンラッドは青年時代には若い女性たちとの親交があり、多くの女性と関わってきた。そして中でも最も深く関わり、作品にも影響を与えたのが、母エヴェリーナ、ポラドフスカ夫人、妻ジェシーである。本書ではこの三人の女性たちに焦点を当て、歴史的コンテクストの中でその肖像を浮き彫りにし、コンラッドが彼女たちとどのような関係を築いたのかを辿り、生身の女性たちが小説という虚構世界にどのような影響を及ぼしたのかについて、『オールメイヤーの阿呆宮』『ノストローモ』『西欧人の眼に』『チャンス』『勝利』という五つの長編小説を対象とし、「コンラッドと女性」という問題を伝記とフィクションの関係性の中で考察している。

【目次】
序 章 「コンラッドと女性」という問題
第1章 母エヴェリーナ
第2章 ポラドフスカ夫人
第3章 妻ジェシー
第4章 『オールメイヤーの阿呆宮』に見る母エヴェリーナの影
第5章 政治小説に見る母エヴェリーナの影――『ノストローモ』と『西欧人の眼に』をめぐって
第6章 『チャンス』に見るコンラッドの結婚
第7章 『勝利』に見るコンラッドの結婚
あとがき
参考文献
索引

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