日本英文学会関東支部4月例会プログラム

 

日時:2008426(土)

於:東京大学駒場キャンパス

18号館 コミュニケーション・プラザ

 

12:30〜12:50(18号館ホール):

開会に先立って(諸連絡など)

 

13:00〜14:30(18号館ホール):

シムポジアム

「英国小説のキャノンと帝国――ディケンズ、ブロンテ、サッカレー」
司会兼講師:冨山太佳夫(青山学院大学教授)
講師:斎藤兆史(東京大学准教授)
講師:坂田薫子(京都教育大学准教授)

 

14:45〜16:15:

シリーズ名作を読む(18号館ホール)

Samuel Taylor Coleridge, “The Rime of the Ancient Mariner” (1798)

講師:藤巻明(立教大学教授)

ディスカサント:アルヴィ宮本なほ子(東京大学准教授)

 

英語教育部会(18号館4階コラボレーションルーム1)

14:45〜15:15:
研究発表:樫村真由(岐阜工業高専専任講師)

日本の高等教育におけるライティング授業でのpeer reviewの使用についての調査

 

15:15〜16:15:

講演:寺西雅之(兵庫県立大学准教授)

これからの英語教育の展望:真のコミュニケーション能力育成を目指した文学作品の活用法(仮題)

 

16:30〜17:30

研究発表

袖野浩美(首都大学東京大学院博士課程)

目に見える恐怖―マシュー・グレゴリー・ルイスのゴシック劇作術

司会:加藤光也(首都大学東京教授)

(18号館ホール)

 

中井理香(立正大学専任講師)

語る・語らぬ物語−−歴史と時間の構造をめぐって

司会:秦邦生(津田塾大学専任講師)

(18号館4階コラボレーションルーム1)

 

18:00〜20:00

懇親会(村山敏勝さんを偲ぶ会)(コミュニケーション・プラザ2階)

 

発表等に関する問合先:末廣幹 (msuehiroアットマークisc.senshu-u.ac.jp http://www.elsj.org/kanto/

関東支部の事務運営に関する問合先:関東支部事務局 田村斉敏 ( e-kantoshibuアットマークnna.so-net.ne.jp )


 

 

研究発表要旨

 

樫村真由(岐阜工業高専専任講師)

 

日本の高等教育におけるライティング授業でのpeer reviewの使用についての調査

 

本発表は、発表者が過去数年に渡って日本の高等教育におけるライティング授業でのpeer reviewの使用について調査したものをまとめたものである。日本の高等教育で英語のライティング授業を担当する教員のpeer reviewの使用状況から、少なくない数の日本人教員がpeer reviewを日本人学生に対して使うことを躊躇していることが分かった。その際日本人教員が使わない理由として挙げた理由上位2つを併せ持つクラスにおいて、その後、発表者が依頼をして試験的にpeer reviewを3回ライティング授業に組み込んでもらった。そこで得た結果と教員を対象とした調査を比較すると、教員と学生の間ではpeer reviewに対する態度のギャップが見られた。これら2つの調査の結果を示すとともに、どのようにすれば日本の高等教育にpeer reviewを組み込むことができるのかについての発表者なりの示唆を発表する。

 

袖野浩美(首都大学東京大学院博士課程)

目に見える恐怖―マシュー・グレゴリー・ルイスのゴシック劇作術

 英国ゴシックロマンス大流行の一端を担ったThe Monk (1796)の著者マシュー・グレゴリー・ルイス(1775-1818)は当時、小説家としてだけでなく、第一線で活躍する人気劇作家としても知られていた。ゴシック演劇と言われる作品の多くが小説のアダプテーションであった中で、ルイスの作品を特徴づけていたのは内容のゴシック的要素よりも斬新な舞台演出方法であったという。崇高美学やピクチュアレスク理論と分かちがたく結びつき、視覚的なものへのオブセッションを孕んだゴシック文学であったが、ルイスの劇作品においては、スペクタクルへの志向という点に小説と演劇の折衝点を見出すことができるだろう。本発表では、劇作家としてのルイスの代表作The Castle Spectre(1798)を中心に、城や修道院などのテクストに描かれたゴシック空間および、ゴシック的想像力が舞台においてどのように可視化されているかを考察していく。技術的な発展と共にさまざまな変容をとげつつあった当時の劇場の現状を参照しながら、政治や宗教の問題には還元され得ないゴシックの持つもうひとつの可能性を見出したい。

 

中井理香(立正大学専任講師)

語る・語らぬ物語−−歴史と時間の構造をめぐって

 

 物語の作者あるいは歴史家は、過去の事象として歴史の中に位置づけられる時間を物語(narrative)に分節化する。そして、一般に、物語世界外に位置するこれらの人物の自由裁量によって、歴史的「リアリズム」を実現していくプロセスは、文学および歴史学において有効である。しかし、人間個人であれ人間集団としての社会であれ、人間によって認識され、因果関係で説明される直線的時間は、自然現象による循環的時間を物語の内部に導入することによって、直線という制約から解放され、むしろそれを相対化する時間認識をも可能となるだろう。

 そこで、本発表では、二つの現代小説すなわちジャネット・ウィンターソンの Sexing the Cherry(1989)およびグレアム・スウィフトのWaterland(1983)と、歴史書との関係を取り上げて、時間性を中心に歴史記述の様式を分析することにより、過去を解釈するための視覚には、死角が潜んでいる様相を解明していく。

 

講演要旨

 講演:寺西雅之(兵庫県立大学准教授)

これからの英語教育の展望:真のコミュニケーション能力育成を目指した文学作品の活用法(仮題)

いわゆる「(浅薄な)コミュニケーション」を重視した英語教育の流れに疑問・怒りを感じている英語教師は少なくない。日本英文学会関東支部の「英語教育・学習研究会」は、このような健全な英語教師のニーズを満たすべく設立されたものであり、また同時に、行き詰まった学校教育の中で「本物の教育」を求める時代の要請でもあったと思われる。研究会発足以来の成果はすでに甚大で、我々英語教師が取り組むべき課題も整理されつつあり、また本研究会が目指している「文学作品を用いた英語教育」の発展にも期待が持てるようになった。本発表では、この研究会においてこれまで提示された教育的視点と、私自身の英語教師としての経験をもとにこれからの英語教育への提言を行う。特に、日本の「教育」を取り巻く環境を分析しつつ、「英語運用能力の育成」と「文学作品の活用法」に焦点をあてたい。