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2024年4月2日

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著者名 書名 出版社 出版年
山下昇 著 『響き合うアメリカ文学――テクスト、コンテクスト、コンテクストの共有』 松籟社 2024

【梗概】
 「ひとつのテクストは、孤立して存在するのではなく、いままで書かれたテクスト、これから書かれるテクストと関係し合っており、テクストは社会と文化環境と歴史という外部へと開かれたものとして捉えられる」(西川直子『クリステヴァ――ポリロゴス』)という考えに基づき、本書においては、テクスト批評、作品内外のコンテクスト、インターテクスチュアリティの観点から、幅広くアメリカ文学を論じた。
 全体を二部建てとし、第一部ではテクストの問題を、出版にからむ事情等を勘案しながら考察し、作品内のコンテクストと作品外の時代的社会的コンテクストの観点から検討した。第二部はそれぞれ複数の作家・作品を取り上げ、それらがどのような相互関連性を持っているのかを検討した。
 第一部は五つの章から成っている。第一章、アプトン・シンクレア、第二章、トマス・ウルフ、第三章、シンクレア・ルイス、第四章、ウィリアム・フォークナー、第五章、ラルフ・エリソン、二〇世紀前半の五人の代表的な作家を取り上げ、それぞれの作品の成立の事情、テクスト間の異同の意義、他の作品との関連、社会的背景との関係などを考察し、新たな読みを提示した。
 第二部は複数の作家・作品を扱う六つの章から成っている。第六章は、ナサニエル・ホーソーンの『七破風の屋敷』とウィリアム・フォークナーの『行け、モーセ』、第七章は、ハリエット・ビーチャー・ストウの『アンクル・トムの小屋』とトニ・モリスンの『ビラヴド』を取り上げて、一八世紀の作家の代表作がニ〇世紀の作家の作品とどのようなコンテクスト上のあるいはインターテクスチュアルな関係にあるかの考察を行った。
 第八章は、マーガレット・ミッチェルの『風と共に去りぬ』とマーガレット・ウォーカーの『ジュビリー』、第九章は、ウィリアム・フォークナーと、二人の日系アメリカ作家、ジョン・オカダの『ノーノー・ボーイ』、エドワード・ミヤカワの『トゥーリレイク』を、第一〇章は、二人のコリア系アメリカ作家、ノラ・オッジャ・ケラーの『フォックス・ガール』と、チャンネ・リーの『降伏した者』を扱い、ミッチェルやフォークナーと現代のアフリカ系作家やアジア系作家とのコンテクストの共有関係に踏み込んでみた。。最終章は、フォークナーと日本の三人の作家、芥川龍之介、太宰治、との関連性を取り上げた。一連の作業を通して作家と作品の新たな位置づけが可能となったと自負している。
 このように、長いスパンのなかで多岐にわたる作品の、コンテクスト性、インターテクスチュアリティを検討してきたのだが、その作業を通して示した新たな読みに多くの反響があることを望んでいる。

【目次】

  第一部 テクストとコンテクスト

第一章 アプトン・シンクレア
    歴史のなかの『ジャングル』――描かれたもの、こぼれ落ちたもの、読まれ方の問題
第二章 トマス・ウルフ
      インフルエンザ・パンデミックと戦争とトマス・ウルフ的想像力――
      『天使よ、故郷を見よ』
第三章 シンクレア・ルイス
      アメリカン・ディストピア文学としての『それはここでは起こり得ない』
第四章 ウィリアム・フォークナー  『スノープス』三部作の意味と意義
第五章 ラルフ・エリスン   『見えない人間』の技法と主題とテクスト

  第二部 コンテクストの共有

第六章 ホーソーンの継承者としてのフォークナー
      『七破風の屋敷』と『行け、モーセ』における人種とジェンダー表象
第七章 ストウの『アンクル・トムの小屋』を書き直すトニ・モリスン―『ビラヴド』再考
第八章 二人のマーガレットの南北戦争小説
       ミッチェルの『風と共に去りぬ』とウォーカーの『ジュビリー』
第九章 「ノーノー・ボーイズ」
       ウィリアム・フォークナー、ジョン・オカダ、エドワード・ミヤカワ
第一〇章 戦争、軍隊、性暴力とジェンダー
     ノラ・オッジャ・ケラー『フォックス・ガール』とチャンネ・リー『降伏した者』
終章 フォークナーと三人の日本作家  芥川龍之介、太宰治、村上春樹

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