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2024年1月14日

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著者名 書名 出版社 出版年
山本裕子 『フォークナーの晩年様式———その展開と変容』 松籟社 2023


【梗概】
 本書は、20世紀アメリカ・モダニズム文学を代表する作家ウィリアム・フォークナーの後期作品群の分析をとおして、その〈レイト・スタイル〉の展開と変容を明らかにすることを試みるものである。フォークナーにレイト・スタイルはあるのか、あるとしたらそれはいかなるものか――これが本書全体を貫く一つの問いである。
 第I部「リ・メモリー《追憶》」においては、新たなスタイルを模索する五〇年代のフォークナーに注目する。第一章「老境のフォークナー 酒と女と馬と」では、五〇年代におけるスタイルの変容が、フォークナーの老いの意識とそこから生まれたアイデンティティの不安と密接に関係しているであろうことを論じる。つづく第二章「老いの繰言 「ミシシッピ」にみるメモワール形式」では、一通の手紙を手がかりに、これまで重要性が看過されてきたメモワール構想に注目する。
 第Ⅱ部「リ・ヴィジョン《再視 = 修正》」では、後期作品にみられる初期作品との間テクスト性に着目することにより、変容するフォークナーのスタイルが、初期作品におけるモダニズム的実験の延長線上にあることを明らかにする。第三章「愛の技法ふたたび 『操り人形』から『尼僧への鎮魂歌』へ」では、フォークナー唯一の戯曲形式の小説『尼僧への鎮魂歌』(一九五一年)について、習作戯曲『操り人形』との関係から検討する。第四章「南部再訪 エヴァンズとフォークナーの後期様式」では、フォークナーの創作の源となったウォーカー・エヴァンズの一枚の写真を結節点として、五〇年代におけるフォークナーとエヴァンズの〈レイト・スタイル〉を考察する。第五章「失われた世代の神話と寓話 『兵士の報酬』と『寓話』」では、フォークナーのデビュー小説『兵士の報酬』(一九二六年)と後期の大作『寓話』(一九五四年)とを比較検討する。
 第Ⅲ部「レトロ・スペクタクル《幻視》」では、フォークナーの〈レイト・スタイル〉の確立が、ノーベル賞作家としての振る舞いを求める同時代的な冷戦文化との絶え間ない交渉の結果であったことを論じる。第六章「夢のあとさき――スノープス三部作とアメリカの夢」では、「付録――コンプソン一族」と『尼僧への鎮魂歌』との間テクスト性を手がかりに、スノープス三部作に描かれるアメリカン・ドリームの行方を読み解く。つづく第七章「老いの幻影――『自動車泥棒』における作者のペルソナ」では、遺作小説『自動車泥棒』を取り上げ、作家フォークナーの〈老いのペルソナ〉に検討を加える。
 終章「死に向かって「否」と告ぐ フォークナーの晩年様式」では、各章の検討から得られた結論をふまえて、フォークナーの〈レイト・スタイル〉がいかなるものであったかを論じる。晩年のフォークナーにとって、生を物語ることこそ自らの生を刷新しつづけることであったと示唆することになるだろう。


【目次】
序章  レイト・フォークナー

第Ⅰ部 リ・メモリー 《追憶》
第一章  老境のフォークナー 酒と女と馬と
第二章  老いの繰り言 「ミシシッピ」にみるメモワール形式

第Ⅱ部 リ・ヴィジョン 《再視=修正》
第三章  愛の技法ふたたび 『操り人形』から『尼僧への鎮魂歌』へ
第四章  南部再訪 エヴァンズとフォークナーの後期様式
第五章  失われた世代の神話と寓話 『兵士の報酬』と『寓話』

第Ⅲ部 レトロ・スペクタクル 《幻視》
第六章  夢のあとさき スノープス三部作とアメリカの夢
第七章  老いの幻影 『自動車泥棒』における作者のペルソナ

終章  死に向かって「否」と告ぐ フォークナーの晩年様式

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