cover art

2022年9月29日

会員著書案内
著者名 書名 出版社 出版年
鶴見良次 著 『イギリス近代の英語教科書』 開拓社 2021


【梗概】
 本書は、17世紀後半から19世紀初頭までのイギリスの貧しい子供たちがどのような目的で、どのように読み書きを学んだかを、興隆期の民衆教育において中心的な役割を果たした慈善学校(charity school)の代表的な英語教科書をはじめ、教育論者の著作、および関連する史料を通して考察したものである。
 この時代の英語教育は、キリスト教知識の教育と分かちがたく結びついており、それらを別々に切り離して考察することはできない。教会の支援を受ける慈善学校が、子供たちに読み書きと教理問答を教えることを目的としていたことがそのことを端的に示している。それらの学校を教理問答学校(catechetical school)と呼ぶこともあった。この呼称には慈善学校の主たる目的を示す面と同時に、後世にその教育の「偏狭さ」を印象づける側面もあった。慈善学校の生徒は、ごく初歩的なABCを覚えたあとは、内容も分からぬままに、教理問答を「オウム返し」させられたとする通説のもととなっているのである。たしかに教理問答書が重要な教材であったとしても、慈善学校の英語教育は、実は一般に考えられているより幅広く豊富な内容と、新しい英語学に基づくさまざまな教授法の試みを伴ったものであった。
 本書は、そのような通説と実態との隔たりを埋めることを通して、宗教教育に付随するものとして始められた読み書き教育から、勤労者に必要な道徳やスキルを与える近代的な教科として「英語」が自立し、世俗化し、独自のカリキュラムを持つようになる過程を考察する。

【目次】
序章
第1部 カリキュラム
 第1章 慈善学校の概要
 第2章 生徒のための信仰と学習の心得書―ホワイト・ケニット『クリスチャンの生徒』(c. 1702)
 第3章 教師のための指導の手引書―ジェイムズ・トールボット『クリスチャンの教師』(1707)
第2部 綴り字と発音
 第4章 分析的綴り字から統合的綴り字へ―トマス・クランプ『正書法の解剖』(1712)
 第5章  「慣用」重視の母語教育―アイザック・ウォッツ『英語の読み方書き方』 (1721)
第3部 綴り字とリーディング
 第6章 『教理問答付きABC』の伝統―ヘンリー・ディクスン『英語教師』(1728)他
 第7章 スペリング・ブックのなかの聖書―フランシス・フォックス『綴り字とリーディング入門』(初版発行年不詳)他
 第8章 英語教材としての聖書―ジョーゼフ・ハザッド刊『簡約 旧約・新約聖書物語』(1726)他
第4部 文法
 第9章  最下級の生徒のための学校文法―ウィリアム・ラウトン『実用英文法』(1734)
 第10章 誤文訂正練習による文法指導―アン・フィシャー『新英文法』(1745)
第5部 文学
 第11章 英語教材としての墓碑詩―ヴァイセシマス・ノックス『エレガント・エクストラクツ・詩編』(c. 1784)他
 第12章 讃美歌集から英詩アンソロジーへ―エリザベス・ヒル『ポエティカル・モニター』正続(1796、[1811])
終章
あとがき
初出一覧
図版出典
参考文献
人名索引


トップページに戻る