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2024年3月19日

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著者名 書名 出版社 出版年
竹山友子・前原澄子・齊藤美和・西垣佐理・中川千帆 著 『ジェンダーロールの呪縛と越境』 英宝社 2023

【梗概】
 本書は、2022年12月18日に甲南大学岡本キャンパスで開催された日本英文学会関西支部第17回大会英米文学部門シンポジウム「ジェンダーロールの呪縛と越境」をもとにしたものである。文学作品が一般市民の手に届き始めるようになった初期近代から20世紀までのテクストに表出される規範的ジェンダーロールに焦点を当て、作者も含めて性別にかかわらずジェンダーロールに縛られる姿、あるいはそれと格闘して越境しようとする姿を、5人の執筆者がそれぞれ異なる文体や時代のテクストを用いて分析する。

序章(竹山友子):テーマの前提となる規範的ジェンダーロールが築き上げられた背景を解説する。

第一章(前原澄子):エリザベス朝演劇『西国の美しい娘』に登場する労働者階級出身の勇敢なヒロイン像を分析する。恋人から受け継いだ商売をその才覚で成功させたのちに、男装した兵士として活躍するヒロインの描写には、中流層以上の人々を対象とするジェンダーロールの規範に当てはまらない下層階級におけるジェンダーロールの曖昧性が反映されていることを指摘する。

第二章(齊藤美和):17世紀を中心に繰り広げられた化粧をめぐる言説について、男性による化粧批判の裏に隠された比喩的な意味を分析し、化粧が女の不実のみならず政治的欺瞞、謀反、罪の表象になる過程を詳説する。最後に女性による化粧弁護論を分析して、化粧が女性の創作活動であり、さらには国家繁栄に貢献する可能性もあることが示唆されていると指摘する。

第三章(竹山友子):16世紀末の男性詩人リチャード・バーンフィールドと王政復古期の女性作家アフラ・ベーンの詩作品に見られるホモエロティシズムの問題を比較検討する。作品の背景となる古代ローマ期/エリザベス朝/王政復古期における同性愛に対する社会の対応を、法律も含めて検証したうえで、ジェンダーロールの越境に対する両者の意識の違いを明示する。

第四章(西垣佐理):ヴィクトリア朝小説の『嵐が丘』と『大いなる遺産』における男性による看護の問題を論じる。家庭的男性性が確立し、男女の性的役割分業が明確に示されるようになった19世紀ヴィクトリア朝において、男性による看護行為が曖昧性を持ちながらも家庭的男性性を否定するのではなく、むしろその確立に貢献していることを明らかにする。

第五章(中川千帆):20世紀前半から半ばのアメリカ人女性作家による犯罪小説に見られる看護師探偵像を分析する。19世紀以降に確立された近代的看護師の職業的立場の特性に加え、家庭内看護師という職業の特殊性を指摘する。そして、戦時における看護師および女性の役割を背景に、看護師探偵が他者の家庭再生を通して国家に貢献するプロセスを考察する。

【目次】
まえがき
序 章 ジェンダーロールの呪縛と越境(竹山友子)
第一章 下層階級におけるジェンダーロールの曖昧性——『西国の美しい娘』(第一部)のヒロインをめぐって——(前原澄子)
第二章 すっぴん崇拝と初期近代の化粧談義(齊藤美和)
第三章 同性への愛と罪の意識——友愛とホモエロティシズムの狭間——(竹山友子)
第四章 ヴィクトリアン・マスキュリニティの確立と男性による看護——『嵐が丘』を中心に——(西垣佐理)
第五章 女性の居場所と職業——二〇世紀犯罪小説の看護師探偵たち——(中川千帆)
執筆者紹介

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