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2024年3月23日

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著者名 書名 出版社 出版年
新野緑 著 『十九世紀小説の誕生——ディケンズ前期小説におけるジャンルの変容』 春風社 2024

【梗概】
 議会報道記者から作家活動を始めたディケンズは、最初の創作作品を『マンスリー・マガジン』誌に投稿したのを皮切りに、掌品を当時の新聞や雑誌に次々と寄稿した。続いて、『ピクウィック・ペイパーズ』をはじめとする長編小説を、安価な月刊分冊形式や雑誌への連載という形で刊行するとともに、自らが雑誌の編集長や主宰者としてその編集にも深く係わっていく。幼い時に親しんだフィールディングやスモーレットなどの18世紀小説と、彼が身を置くジャーナリズムとを創作の基点とし、そこからヴィクトリア朝を代表する小説家へと発展したディケンズの「エクリヴァン」としての変容の過程は、そのまま18世紀に誕生した小説というジャンルが、19世紀的な新たな形態を獲得していく過程を表すものとも考えられよう。
 こうしたディケンズ小説の発展の背後には、もちろん、印刷技術の発達や交通機関の進歩に伴う刊行配本体制の変革といった出版に関わる技術革新、そしてそれに伴う一般大衆読者の出現、出版社や挿絵画家と著者との関係性の変化などの、外的要素も存在し、作品変容の要因として重要な役割を果たしている。
 本書は、このディケンズにおける内的、外的な力のせめぎ合いの中で、『ボズのスケッチ』から『バーナビー・ラッジ』に至る前期6作品において、彼が真の意味で19世紀的な都市型作家へと脱皮する自己成型の過程を、ジャーナリズム、イラストレーション、ピカレスク、メロドラマなど、作品内に提示される多様なジャンルとのネゴシエーションのあり方に注目しながら跡づけようとしたものだ。同時に、ディケンズ小説に頻出する「群衆」と「市場」というモチーフが、当時の社会情勢の変化とも密接に関わりつつ、後期小説をも含む彼の生涯に亘る創作活動を通して変容していく様を考察し、前期小説の発展をもたらした作家の自己形成を、作品内部にとどまらない、より広いスパンにおいて異なる角度から検討することを目指している。

【目次】
序章 小説というジャンル
第1章 ジャーナリストから小説家へ——『ボスのスケッチ』の構成をめぐって
第2章 挿絵との交渉——『ピクウィック・ペイパーズ」における小説家の位置
第3章 境界線を引く——『オリヴァー・トゥイスト』におけるリアリズムの探究
第4章 新たな創作の形を求めて——『ニコラス・ニクルビー』におけるジャンルの変容
第5章 都市型作家の誕生——『骨董屋』 に見るディケンズの自己形成
第6章 せめぎ合う言葉——『バーナビー・ラッジ』における謎の創出
第7章 現実と想像の間——ディケンズと群衆
第8章 ロンドンの胃袋——ディケンズと市場
終章 ジャーナリストから都市型作家へ

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