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2023年5月28日

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著者名 書名 出版社 出版年
藤野功一 編著 『都市と連帯——文学的ニューヨークの探究』 開文社 2023


【梗概】
 2020年以来、新型コロナウイルス感染症の流行により、多くの人々が社会的連帯を喪失した。ニューヨークにおいても、社会的不平等と人種差別が新型ウイルスの蔓延と深く結びつき、都市に住む人々が抱えていた問題がより鮮明に意識されている。一方で、ニューヨークを含む多くの都市で大規模なデモが行われたブラック・ライヴズ・マター運動では、感染症流行のために失業し不自由な暮らしを余儀なくされた住民の、すでに事実としてある社会的分断を前提にした上での新たな連帯の希求が示された。
 このような近年の人々の分断の現状と連帯の必要性の高まりを前提としながら、この論集は、1920年代から2010年代までのニューヨークを舞台にした小説および演劇において、都市におけるマイノリティーの孤独の現実と連帯の可能性がどのように描かれてきたかを探究する目的をもって編まれた。マイノリティーの分断と連帯の可能性は、これからもニューヨークばかりでなく、都市化する世界の多くの人々にとっての重要な課題であろう。
 なお、本論集は1985年から続く福岡アメリカ小説研究会の『60年代アメリカ小説論』(2001年)、『ポストモダン・アメリカ——一九八〇年代のアメリカ小説』(2009年)、『ホワイトネスとアメリカ文学』(2016年)に続く4冊目の論集として上梓され、以下の内容を含む。

高橋論文:『グレート・ギャツビー』のニューヨークを、都市中心部と郊外の二項対立の空間として捉え、ニックが語ろうとする連帯と語らない連帯、それらが示す展望を検討する。

松下論文:『プラムバン』におけるパッシング女性の自立とセクシュアリティに女性同士の連帯の可能性を見出し、ハーレム・ルネサンスにおける黒人女性作家の不自由さを論じる。

藤野論文:『見えない人間』で変化してゆく語り手の存在のあり方を不定形な働きとして名指し、語り手の不可視性とそれが作り出す繋がりを考える。

永尾論文:『山にのぼりて告げよ』で黒人グライムズがハーレムの教会に拠り所を見出す物語を通じて、ボールドウィンが「西洋の私生児」と呼ぶアメリカ黒人の歴史的経験を論じる。

江頭論文:『アシスタント』のイタリア系移民フランクがユダヤ人となる結末において、個人がユダヤ人、非ユダヤ人という枠を超え、ニューヨークで生き抜く際の連帯の意味を問う。

岡本論文:『エンジェルズ・イン・アメリカ』を再読し、1980年代ニューヨークのエイズ禍とそれに対する演劇界の反応を「分断の時代における連帯」という逆説によって読み解く。

肥川論文:『マオⅡ』の個人の声を抑圧する権威者、それに抗う作家ビル、そして二つの結婚式を取り上げ、それぞれにおける連帯の諸相の考察を、民衆の声に焦点をあてて行う。

銅堂論文:『ジャズ』におけるコミュニティや連帯を生む原動力をハーレムの街路に見出し、強制移動、座り込み、個人及び集団による即興的歩みにシティ再創造の可能性を見る。

大島論文:『リザベーション・ブルース』で、世紀を超えての白人の収奪と支配が端的にニューエイジという形で継続する様を、ニューヨークを舞台とする物語の転換点に読み取る。

貴志論文:『ディスグレイスト』におけるポスト9・11のイスラモフォビアとパキスタン系アメリカ人弁護士のアイデンティティ危機を巡り、他者の疫病化と連帯の幻想性を論じる。


【目次】
「序——他者の歴史化に向けて」 (藤野功一)
「『グレート・ギャツビー』に見る連帯——ニューヨークの都市空間と人々」 (高橋 美知子)
「ハーレム・ルネサンス・シスターフッド——ジェシー・レドモン・フォーセット『プラムバン』における女性の連帯」(松下 紗耶)
「都市の渇き、あるいはラルフ・エリスンの『見えない人間』における不定形な働きについて」 (藤野 功一)
「時間の外にある都市」——『山にのぼりて告げよ』におけるハーレムと教会」 (永尾 悟)
「彼らは何を待ち続けていたのか——『アシスタント』における連帯の意味を問う」 (江頭 理江)
「分断の時代における連帯という逆説——エイズ禍とアメリカ演劇」 (岡本 太助)
「連帯の諸相——ドン・デリーロの『マオⅡ』におけるモノフォニーとポリフォニー」 (肥川 絹代)
「『都市生活は街路生活』——『ジャズ』における『シティ』と街路(ストリート)」 (銅堂 恵美子)
「『リザベーション・ブルース』における文化収奪」 (大島 由起子)
「巨大都市NY、幻想の連帯——アヤド・アクタールの『ディスグレイスト』における他者化する自己との遭遇」 (貴志 雅之)
あとがき
執筆者一覧
索引


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