著者名 | 書名 | 出版社 | 出版年 |
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高本孝子・池園宏・加藤洋介共編 | 『新世紀の英語文学――ブッカー賞総覧2001-2010――』 | 開文社出版 | 2011年 |
ブッカー賞(現在の正式名称は「マン・ブッカー賞」)はイギリスで最も権威ある文学賞とみなされているが、本書はこのブッカー賞の2001年から2010年にかけての受賞作および最終候補作全60編のあらすじに加え、そのうちの16編(受賞作10編を含む)についての作品論を掲載したものである。執筆者はすべて福岡現代英国小説談話会のメンバーである。1975年にスタートして以来、同会は最新のイギリス小説を読む活動を続けているが、ここ十数年は、主宰者である吉田徹夫氏のもと、年3回ほどの例会のたびにブッカー賞関連作品を1つずつ取り上げ、自由討論を重ねてきた。その研究成果の一端として、2005年に『ブッカー・リーダー――現代英国・英連邦小説を読む――』(吉田徹夫監修)を上梓したが、本書はその続編とも言うべきものである。
本書は2部から成る。それぞれについて簡単に紹介させていただきたい。
第1部の主な内容は、2001年から2010年までのブッカー賞の動向を分析した「序」に続き、同期間におけるブッカー賞受賞作10編および有力作家による作品6編、計16編それぞれについての研究論考である。加藤洋介による「序」では、近年のブッカー賞の顕著な傾向として、ポストコロニアル作家たちの活躍に由来する国際化現象、および、インターネットの普及に伴うブッカー賞のあり方の変容という2つの点を挙げ、それぞれについて詳しく論じている。続く個々の作品論はそれぞれの執筆者の読みの実践の成果であるが、全体について言えば、談話会の主旨として、まずはテクストを真摯かつ丹念に読み込み、そこから抽出される主題を深く絞り込んで論究していくという基本路線があるため、個々の作品批評の手法も全体としてこれに沿ったものとなっている。
続く第2部では、上記期間の年ごとの受賞作および最終候補作5編の梗概を紹介している。1ページごとに1作品を取り上げ、900字程度の梗概・作者の略歴・邦訳情報を掲載している。作者の略歴を概観すると、上に述べたように、近年のブッカー賞作家たちがさまざまな民族的バックグラウンドを持っていることが実によくわかる。それに加えて、作家たちがほぼ例外なく高学歴の持ち主であるという事実も目につく。あらすじ作成はかなりの時間と力量を要する作業であるが、作品論執筆者16人に吉田徹夫・矢野紀子が加わり、18人で手分けして作業にあたった。
巻末にはなるべく詳細な索引を掲載し、それぞれの項目について英訳も付した。索引を一瞥するだけでも、ブッカー賞の国際化が実感できるだろう。本書が近年のイギリス連邦およびアイルランド小説の動向をつかむ上で重宝な読み物として利用していただけることを、執筆者一同願っている。 (文責 高本孝子)