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著者名 書名 出版社 出版年
Chine Sonoi British Romanticism, Slavery and the Slave Trade 1780s to 1830s Kyushu University Press 2011年
【内容】

本書では、18世紀ヨーロッパ文化の暗部を支えた奴隷貿易、特に英国における奴隷貿易廃止運動を背景に、第一世代のイギリスロマン派詩人(コールリッジ、サウジー、ワーズワス、ブレイク等)の文学的感覚と社会的感受性が、彼らの宗教的、政治的、哲学的思索を総動員し、いかにそれに関与したかを考察する。第一世代のロマン派詩人に注目する第一の理由は、その文学的性質のある種の変化とイギリス社会における奴隷貿易論争の進行が共時的であり、特にロマン派文学の道徳的感覚、反奴隷貿易運動における政治的社会的関与、さらに共通する思想的特徴の考察に必須だからである。

奴隷の抑圧とその解放というテーマは芸術的文脈においても人間精神の解放を目途とする理想的自由主義思想と一致することは自明だが、同時により深い道徳的感覚と関連する。詩的主題として黒人奴隷の主題に注目し、彼らの葛藤や苦しみに共感する率直な表現は、読者の想像力と同情を喚起するだけではない。反乱奴隷の英雄性を強調する主題等はロマン主義思想の本質である社会的義憤と平等主義社会確立への強い希望を表現するものとして特徴的である。

ロマン派詩作における奴隷貿易廃止論争を共通の主題にするにせよ、その視点は強弱、濃淡、明確、曖昧性等の複雑さがあり、それはさらに、ロマン派詩の自由主義運動における政治的関与、あるいは宗教的には非国教徒的感性との関連の深浅という側面も示す。例えば、圧倒的に非国教徒の支持を受ける社会改革運動は、社会的善を達成するための極端な変革を推進するという急進的性質を示す一方で、思想的には後期ジャコバン体制の危険性を内包するものとして警戒される。イギリスロマンティシズムの詩的感受性の微妙な性質を示すものともいえる。自由主義的改革思想に対するロマン派精神の本質的希求と社会的変化の関係が単純ではないこともそうである。

さらに、当時の知的機運の一つとして盛り上がった白人種をトップに据える人種理論のポレミックスが、ロマン派思想の人道主義、平等主義に重要な影響を与えたこととの関連がある。すなわち、奴隷売買の非人道性を強く糾弾するが、他方で奴隷である黒人の文明的劣性は是認するという議論は、この問題を主題とするロマンティシズム文学においていかなる道徳的一貫性を持ち得たのか。ロマン派詩人はいかにこの葛藤を克服し、芸術的ヴィジョンを形成し得たか。本書は、以上の論点を中心に、ロマンティシズムの社会的意味を鋭く問い直す。



Contents (目次)

Acknowledgement
Introduction
Chapter I Debate on the British Slave Trade from 1780s to 1830s
Chapter II Theories of Race
Chapter III Coleridge and Abolitionist Poems in a Unitarian Context
Chapter IV Southey and the Slave Trade
Chapter V Wordsworth and the Slave Trade
Chapter VI Blake and the Slave Trade
Conclusion
Bibliography
Index

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