著者名 | 書名 | 出版社 | 出版年 |
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地村 彰之 | 『チョーサーの英語の世界』 | 溪水社 | 2011年 |
本書は、イギリスの14世紀に活躍した詩人で英詩や英語の父と称されるジェフリー・チョーサー(Geoffrey Chaucer)(1340?-1400)の英語の世界を総合的に鳥瞰し、 イギリス中世における「異」なるもの、「同」なるもののとらえ方やアプローチの多様性を知り、21世紀に向けて、 異文化接触の問題を考える上での手がかりを得ることを目的としています。
第1章では、アングロ・サクソン詩「海ゆく人」とそれを翻訳した現代の詩人エズラ・パウンド(Ezra Pound)の詩「海ゆく人」の類似点と相違点を見出して 英文学における伝統と刷新の一端を眺めています。 第2章では、写字生に対するチョーサーの不満、写本と諸刊本との共通点と相違点、作品のテクスト伝達の観点から、 テクストにおける排除と寛容の問題を検討しています。第3章では、チョーサーの言語を、主に語彙における異質性の面から異文化接触についてアプローチし、 その社会的価値や文学的効果を明らかにしています。第4章では、外界認識のありようを示す言語を手がかりに文化の多元性に迫るために、 チョーサーの英語における外来語の使用や語形成を分析しています。第5章では、チョーサーにみられる格言的表現を通して複眼的思考の跡をたどり、 価値判断における多文化共生について考察しています。第6章では、イギリスの中世後期に活躍したチョーサーと その当時の旅行記を著したマンデヴィルについて調べ、中世の旅と楽しみについてみています。第7章では、 チョーサーの『公爵夫人の書』の中で使われる語とその関連語が作り出す語彙のネットワークを探ることを通して、 チョーサーの言葉遊びについて考察しています。第8章では、チョーサーの『カンタベリー物語』の「学僧の話」に登場する忍耐強いグリセルダと、 物語の登場人物の一人である男勝りのバースの女房とその彼女が語る物語の中の老婆に焦点を当てて、両極端とも思われる二つの極端な女性像を追って行きます。 第9章では、チョーサーの笑いについて、読者・登場人物・作者という三つの視点から考察しています。第10章では、 チョーサーの周りに日常的に存在していた酒に関する表現が、特に『カンタベリー物語』の中でどのように使われているかについて調べています。
本書は、原文の引用のあとには必ず日本語訳を付けることによって、気楽な読み物になることも願っています。 ただし、引用文は一部拙訳を付けていますが、チョーサーなどの訳は本邦の翻訳を使わせていただきました。この場でお礼を申し上げます。
本書は、平成16〜19年度科学研究費補助金基盤研究(B)(2)による共同研究
「中世ヨーロッパ文化の多元性に関する総合的研究」の研究成果の一つです。
広島大学ヨーロッパ中世研究会が今日まで実施してきた公開講座や公開シンポジウムを基に対外的に発信してきた共同研究の中で、
筆者が担当した研究を一冊にまとめたものです。哲学、史学、文学語学にまたがる総合的な学界に本書を加えていただければ幸いです。
【目次】
はしがき
第1章 古期英語の伝統と刷新
第2章 チョーサーの写本とテクスト
第3章 チョーサーの英語にみる異文化
第4章 チョーサーの英語における多元性
第5章 チョーサーの英語と格言的表現
第6章 チョーサーの英語と旅
第7章 チョーサーの英語と言葉遊び
第8章 チョーサーの英語にみる女と男
第9章 チョーサーの英語と笑い
第10章 チョーサーの英語と祝宴
おわりに