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著者名 書名 出版社 出版年
塩田 弘、松永京子 (他) 編著 『エコクリティシズムの波を超えて 人新世の地球を生きる』 音羽書房鶴見書店 2017

【梗概】
 本書は、エコロジカルな思想を取り入れた文学批評「エコクリティシズム」による作家、作品、テーマ研究を追求した研究論集である。全四部 25本の論考に加え、スコット・スロヴィックによる序章「第四の波のかなた─エコクリティシズムの新たなる歴史編纂的比喩を求めて」と、巽孝之による終章「聖樹伝説─ヨセミテの杜、熊野の杜」により構成される。
 序章では、エコクリティシズムのルーツと変遷をたどりながら、「波」のメタファーと、本書のサブタイトルにも用いられる「人新世」(Anthropocene)について言及し、本書のテーマにつながる問題点を俯瞰すると同時に足掛かりを示す。
 第一部「エコクリティシズムの源泉」は、「キャノン」として定着した古典アメリカ文学(Audubon /Melville /Hawthorne /Thoreau /Twain /Poe)における環境意識について、エコクリティシズムの視点から再検討する。
続く第二部「エコクリティシズムの現代的展開」は、現代の環境問題における多様なテーマと視座について提示し、20世紀以降のエコクリティシズムの新たな展開を探る(Rachel Carson /Rick Bass /Ruth L. Ozeki /Jan Harper-Haines / Alistair MacLeod)。
 第三部「SFとポストヒューマン」は、未来の地球や環境を想像する SF(Shelley /Wells /Bradbury / Octavia Butler /Hawthorne /Wilde /Vonnegut /Bacigalupi /上田早夕里 /日野啓三)が現代社会が直面する問題をどのように描いてきたのかを探り、ポストヒューマンの概念についての有効性を示す。
第四部「核時代の文学」は、現代の作家(Hughes / Rudolfo Anaya/ Malamud /Juliet S. Kono /Marie Clements)の「被爆・被曝をめぐる言説」を基に、彼/彼女らが「核の時代」を生きる中でいかに模索しているかを検討する。
 終章、巽孝之「聖樹伝説─ヨセミテの杜、熊野の杜」では、巽氏の祖父、巽孝之丞を起点とし、ヨセミテ国定公園、ジョン・ミューア、南方熊楠をめぐる壮大な歴史ドラマが本書のテーマを根底から支える。

【目次】
はじめに 松永京子

序章
第四の波のかなた─エコクリティシズムの新たなる歴史編纂的比喩を求めて スコット・スロヴィック/伊藤詔子訳 

第 I部 エコクリティシズムの源泉─風景の解体と喪失
1 作家オーデュボンの先駆性─辺境の他者表象から探る 辻祥子
2 メルヴィルの複眼的自然観─野生消滅への嘆きから自然の猛威の受容へ 大島由起子
3 メルヴィルの『雑草と野草─ 一本か二本のバラと共に』を読む─自然の蘇生と自然を通しての人間の蘇生  藤江啓子
4 「ナショナルな風景」の解体─ホーソーンの「主として戦争問題について」をめぐって 大野美砂
5 産業革命による個の発見と喪失─ソローと漱石の鉄道表象 真野剛
6 マーク・トウェインの自伝と〈ミシシッピ・パストラリズム〉 浜本隆三
7 ポーとポストヒューマンな言説の戦場─「使い果たされた男─先のブガブー族とキカプー族との激戦の話」 伊藤詔子

第 II部 エコクリティシズムの現代的展開─語り始めた周縁
8 レイチェル・カーソンの『潮風の下で』─ヘンリー・ウィリアムソンの影響を探る  浅井千晶
9 地図制作者が描く幸福─ソローとリック・バスの挑戦と実践  塩田弘
10 ルース・オゼキの『イヤー・オブ・ミート』とメディア  岸野英美
11 アラスカ先住民族の病─疫病の記憶と後世への影響  林千恵子
12 アリステア・マクラウドと環境に関する一考察─故郷はいつもそこにあるのか  荒木    陽子

第 III部 SFとポストヒューマン─境界のかなたへ
13 SFにおけるエコロジー的テーマの歴史の概観  デビッド・ファーネル/原田和恵訳
14 ナサニエル・ホーソーンはポストヒューマンの夢を見るか  中村善雄
ポストヒューマン・ファルスとして読む『真面目が肝心』 日臺晴子
15 カート・ヴォネガットのエコロジカル・ディストピア─『スラップスティック』におけるテクノロジーと自然  中山悟視
16 ポスト加速時代に生きるハックとジム─パオロ・バチガルピ小説におけるトウェインの痕跡  マイケル・ゴーマン/松永京子訳
17 ポストヒューマンの世界─上田早夕里『オーシャンクロニクル』シリーズにおけるクイア家族  原田和恵
18 日野啓三の文学における物質的環境批評─ティモシー・モートンとブライアン・イーノを手掛かりに 芳賀浩一

第 IV部 核時代の文学─アポカリプス、サバイバンス、アイデンティティ
19 ラングストン・ヒューズの反核思想─冷戦時代を生き抜くシンプルの物語  松永京子 ルドルフォ・アナーヤの四季の語りと核  水野敦子
20 核戦争後の創世記─バーナード・マラマッド『コーンの孤島』と喋る動物たち 三重野佳子
21 火に生まれ、火とともに生きる─ジュリエット・コーノの『暗愁』 深井美智子
22 ジュリエット・コーノ『暗愁』における有罪性─エスニック文学の新しいナラティブをめぐって  牧野理英 
23 燃えゆく世界の未来図─マリー・クレメンツの劇作にみるグローバルな環境的想像力  一谷智子

終章 聖樹伝説─ヨセミテの杜、熊野の杜 巽孝之 

おわりに 塩田弘
人名・事項索引
執筆者紹介

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