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著者名 書名 出版社 出版年
坂田薫子 怪物[モンスター]のトリセツ[取扱説明書]――ドラキュラのロンドン、ハリー・ポッターのイギリス 音羽書房鶴見書店 2019

【梗概】
本書はイギリスのゴシック小説やファンタジー小説に登場する怪物(モンスター)や魔物たちが、それぞれの作品が執筆された時代のどういった社会的、文化的諸問題を映し出しているのかを解き明かすことを目的としている。
第一部「イギリス一九世紀末小説の怪物[モンスター]たち」は大英帝国の衰退を憂い、人種退行の恐怖におびえるヴィクトリア朝後期のイギリス人たちが、文学作品に怪物(モンスター)として登場させ、イギリス社会から排除しようとした存在の正体を、当時の社会のホモセクシュアルの男性への嫌悪感、「新しい女」の脅威とフェミニズム運動の台頭なども考慮に入れながら、H・G・ウェルズ、R・L・スティーヴンソン、オスカー・ワイルド、H・ライダー・ハガード、ブラム・ストーカーの諸作品を用いて分析し、怪物たちがこぞって登場するイギリス一九世紀末小説群は、一九世紀末のイギリスの社会的、文化的諸問題を反映した小説として理解されるべき作品であることを明らかにした。
第二部「赤ずきんちゃんの誘惑」では、二〇世紀の作家アンジェラ・カーターが短編「狼たちの仲間」で行ったおとぎ話「赤ずきんちゃん」の書き換えの斬新さと限界について分析した。カーターは「赤ずきんちゃん」のテーマであるレイプの問題に果敢に取り組み、シャルル・ペローやグリム兄弟によってステレオタイプ化された、弱くて守ってあげなければならない女性像から女性たちを救い出そうとしたものの、その問題の複雑さゆえに、西洋キリスト教文明における価値観と道徳観が作り出した別のステレオタイプ化された女性像、女は男を誘惑するイヴであるという女性像へと彼女たちを投げ入れてしまった可能性を指摘した。
第三部「ハリー・ポッターのイギリス」では、『ハリー・ポッター』シリーズに読み取ることのできる現代のイギリス社会が抱える諸問題と、それらに対する作者J・K・ローリングの態度、回答について考察した。各章で、魔法界という仮想の世界に読み取ることができる人種問題、階級問題、ジェンダーの問題に注目し、このシリーズは女性に関しては伝統的、保守的な側面が強く、人種に関してはその描写に大英帝国時代の遺産を垣間見ることができ、階級に関しては多分に自由主義、個人主義ではあるものの、平等主義的な社会主義にまでは至っていないことを解き明かした。また、このシリーズは未だにイギリスの過去を引きずっている一方で、子どもたちの未来に変化への希望を託している、まさに現代社会を写し取った児童文学作品であると結論付けた。


【目次】
はじめに

第一部 イギリス一九世紀末小説の怪物[モンスター]たち
序章
第一章 大英帝国の陰り
第二章 退行していくイギリス人種――『タイム・マシン』と『モロー博士の島』
第三章 子孫を残さぬ男たち――『ジキル博士とハイド氏』と『ドリアン・グレイの肖像』
第四章 子孫を残さぬ女たち――『洞窟の女王』と『ドラキュラ』
第五章 他人種の脅威――『ドラキュラ』と『宇宙戦争』
結び――他者の矛盾

第二部 赤ずきんちゃんの誘惑
第一章 アンジェラ・カーター作『血染めの部屋』について
第二章 おとぎ話「赤ずきんちゃん」の変遷
第三章 カーターの「赤ずきんちゃん」の書き換えの功績
第四章 カーターの「赤ずきんちゃん」の書き換えの問題点
結び

第三部 ハリー・ポッターのイギリス
序章
第一章 『ハリー・ポッター』と現代イギリス社会における人種問題
第二章 『ハリー・ポッター』と現代イギリス社会における階級問題と政治
第三章 『ハリー・ポッター』と現代イギリス社会のジェンダー観
結び


あとがき
初出一覧
引用文献
索引
著者略歴

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