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著者名 書名 出版社 出版年
岡本正明著 『アルタモント、天使の詩―トマス・ウルフを知るための10章』 英宝社 2019

【梗概】
本書は、日本において(ほとんど邦訳が出版されていないという事情もあり)いまだ十分に研究のなされていない、トマス・ウルフの4つの長編小説(『天使よ故郷を見よ』、『時と河について』、『蜘蛛の巣と岩』、『汝ふたたび故郷に帰れず』)、及び代表的な中・短編小説を、文学的な観点(言語的、物語的、伝記的観点)のみならず、美学的・哲学的・社会的・文化的観点からも、精密に多角的に読み解き、かつウルフ文学の見取図(全体像)を描き出すことを目的としている。とりわけ、「アメリカ」と「時間」という中心的テーマについて深く論じている。また、ウルフの草稿と出版されたテクストを比較する日本で初めての本格的な論考である。さらには、トマス・ウルフが、ヒトラー(ナチズム)を批判する勇気と作家的良心を有していたことを明らかにしている。

第一章では、ヘミングウェイとウルフを、芸術における様式論的な観点から比較対照することによって、ウルフ文学の特徴を鮮明に浮かび上がらせることを意図している。

第二章は、トマス・ウルフの「アメリカ性」を「民衆的形式」という視座をもうけることで解明しようとするものである。

第三章では、『天使よ故郷を見よ』における主要人物の造型、人物同士のドラマ、中心的テーマを徹底的に読解することを意図している。

第四章は、第三章と表裏一体であり、第三章で明らかになった『天使よ故郷を見よ』の世界像を、「劇」という観点からさらに明確にすることを主眼としている。

第五章は、『時と河について』における「時間」のテーマを深く掘り下げて論じようとするものである。

第六章では、「夜」のテーマという観点から、主として『時と河について』を論じている。

第七章は、トマス・ウルフの遺作である『蜘蛛の巣と岩』、『汝ふたたび故郷に帰れず』を解説、あるいは再評価した論文である。

第八章と第九章は、ウルフの中・短編小説の中でも特に優れた作品である「汝らに告ぐることあり」と「大地の蜘蛛の巣」を、従来とは全く違った新たな視点(たとえば、「魔術的リアリズム」の観点)から考察したものである。

第十章は、トマス・ウルフの『天使よ故郷を見よ』とその草稿『失われしもの』を比較対照した論考である。

トマス・ウルフは、アメリカでは、ヘミングウェイ、フィッツジェラルドと並び一般に知られる存在であるが、日本において、これまであまり知られてはいなかった。しかし、最近、トマス・ウルフについての映画『ベストセラー:編集者パーキンズに捧ぐ』が日本において公開され、一般の人々の関心を大いに集めた。また、『天使よ故郷を見よ』の翻訳が再刊され多くの読者をひきつけた。まさに、「ウルフ・ルネッサンス」という事態が日本において生じている。

本書は、このような状況を踏まえ、ウルフ文学の全体像を解説することを企図したものである。

3. 目次

はしがき―自伝的な、あまりにも自伝的な― 
第一章 ヘミングウェイとウルフ―エクリチュールの両極―
第二章 トマス・ウルフの作品と「民衆的形式」
第三章 アルタモント、天使の詩―『天使よ故郷を見よ』を読む―
第四章 劇作家くずれの小説家―トマス・ウルフと「劇」―
第五章 再生と反復について―『ある小説の物語』と『時と河について』―
第六章 ウルフと「夜」
第七章 トマス・ウルフの遺作―『蜘蛛の巣の岩』と『汝ふたたび故郷に帰れず』―
第八章 最後の10マルク―トマス・ウルフ「汝らに告ぐることあり」―
第九章 「大地の蜘蛛の巣」についての一考察
第十章 削除された原稿―トマス・ウルフのO Lostについて― 
あとがき
初出一覧
トマス・ウルフ主要参考文献

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