会員著書案内
著者名 書名 出版社 出版年
岡本正明 著 『英米文学つれづれ草―もしくは、「あらかると」』 朝日出版社 2018

【梗概】

本書は、英米の作家(文筆家)、あるいは、英米の視点からとらえたニッポン文学・文化について、折あるごとに書きしるした文章のなかから二十編を選んで、一冊にまとめたものである。学術論文、随想、紹介記事など、さまざまなジャンルの文章をあつめた評論集であり、いわば、自由気ままな「英米文学の散歩道」である。

 第一部と第二部は、イギリス文学やアメリカ文学の枠に収まらないコスモポリタン的な作家である、ロレンス・ダレルとヘンリー・ジェイムズに関する論考から成っている。第一部は、二十世紀文学の最高峰とされる『アレクサンドリア四重奏』の推理小説的「謎とき」であり、ダレルのマニエリスム的迷宮を多角的・多層的に解読しようとするものである。第二部第一章の『ロデリック・ハドソン』論は、おなじく推理小説的「謎とき」を主眼としている。また、第二章でとりあげた『カサマシマ公爵夫人』は、『ロデリック・ハドソン』の続編であり、第一章と第二章は相互補完的な関係にある。第三章は、「女優」という観点からヘンリー・ジェイムズの「演劇的特性」に光を当てた論考である。

 第三部は、歴史・思想など、主として小説ジャンル以外の散文に関する論考をあつめたものである。第二部でとりあげた、ヘンリー・ジェイムズの文学の理論的支柱となった、ウィリアム・ジェイムズの思想の「見取図」をえがいた論文。オールダス・ハクスリーの「歴史」に関する著作を扱った論文。歴史家・思想家ヘンリー・アダムズに関する随想風の小論。また、ヘンリー・アダムズとトマス・ピンチョンを比較した覚え書き風の小論。スタインベックの旅行記に示された思想を、「複雑系」という観点から再評価した論考。そして、エコロジーの思想をテーマとした、レイチェル・カーソンについての小論を収めてある。

 第四部は、現代アメリカ作家についての論考からなり、トマス・ウルフとヘンリー・ミラー(ミラーは第一部でとりあげたダレルの文学上の師である)を中心とするものである。第三章は、トマス・ウルフの作品における「時間」の問題を扱い、第六章は、ヘンリー・ミラーの「小説言語」を精緻に分析した論文である。第一章の『老人と海』論、および第五章のノーマン・メイラーに関する文章は、「コラム」、あるいは気ままな随想文である。

 第五部は、主として、英米の視点からとらえたニッポン文学・文化をテーマとしている。第四部でとりあげた作家ヘンリー・ミラーが書いた、異色の「ミシマ」論にかんする小論。英訳をとおして読む「カワバタ」文学論。第二部と第三部においてとりあげたヘンリー・ジェイムズ、ウィリアム・ジェイムズ、ヘンリー・アダムズの「同時代人」である、ジョン・ラファージの紀行文(京都・奈良の旅行記)に関する小論。そして、ジェイムズ・ジョイス、フォークナーなど、おもに英米のモダニズム文学との比較をふまえて、ニッポン文学をグローバルな視点からとらえた「時間」にかんする論考を収めた。



目次

第一部 読みのプレジール(I)―ロレンス・ダレル―
四つのムーヴメント―『アレクサンドリア四重奏』を読む、もしくは、「読み」の四重奏

第二部 読みのプレジール(II)―ヘンリー・ジェイムズ―
 第一章 演劇的な、あまりにも演劇的な―『ロデリック・ハドソン』必携―
 第二章 『カサマシマ公爵夫人』必携
 第三章 劇作家としての小説家―ヘンリー・ジェイムズと「女優」―

第三部 思想のフロンティア
 第一章 ウィリアム・ジェイムズの世界
 第二章 「歴史」を診る―フーコー、アリエス、セルトーの先駆者ハクスリー―
 第三章 ヘンリー・アダムズのみた「ダイナモ」
 第四章 アダムズとピンチョン―横断する知性―
 第五章 「コルテスの海」、あるいは「複雑系」の海―スタインベック再評価―
 第六章 『潮風の下に』、あるいは「海の交響詩」―レイチェル・カーソン

第四部 アメリカ文学アラカルト  第一章 『老人と海』の「クラゲ」
 第二章 自伝的な、あまりにも自伝的な―トマス・ウルフの「自伝的」という概念―
 第三章 トマス・ウルフ『天使よ故郷を見よ』における「人間的時間」の考察
 第四章 『天使よ故郷を見よ』の世界を旅する―トマス・ウルフの母校を訪ねて―
 第五章 ノーマン・メイラーの「肖像」
 第六章 仕立屋ミラー―あるいは、反―「私小説」―

第五部 グローバルなニッポン文学
 第一章 アメリカ作家のみたミシマ―ヘンリー・ミラーを中心に―
 第二章 日本文学の英訳を読む―川端康成『雪国』―
 第三章 ジョン・ラファージの古寺巡礼―京都・奈良を中心に―
 第四章 二十世紀文学と時間―ニッポン文学編―

初出一覧
あとがき

トップページに戻る