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著者名 書名 出版社 出版年
岡本正明 『横断する知性―アメリカ最大の思想家・歴史家 ヘンリー・アダムズ』 近代文藝社 2016

【梗概】
 本書は、アメリカを代表する思想家・歴史家・文学者ヘンリー・アダムズの現代性を、「横断」的な方法を中心に明らかにしたものである。学問の諸領域を自由自在に「横断」し、新しい時代に合った新しいモデルを生み出すという知的組み換え作業。それは、学際的アプローチの必要性が求められている二十一世紀の現在、あらためて評価すべき点である。また、本書では、このような「横断」的方法について論じるばかりか、アダムズのテクストの多様性と複雑性を細部にわたって読み解くことをも意図している。そうすることで、ヘンリー・アダムズの全体像をより明確に、具体的に浮かびあがらせ、現代に生きる思想家・歴史家・文学者としてのアダムズ像を描き出している。
 本書の構成と内容は以下の通りである。

 第一部は、ヘンリー・アダムズにおける「歴史」の問題を中心的テーマとするものである。彼の歴史哲学、および歴史記述(の方法)に光を当てようとする試みである。考察の対象となるテクストは、『ジェファソン、マディソン政権下のアメリカ史』、『モン・サン・ミシェルとシャルトル』、『ヘンリー・アダムズの教育』である。第一部第一章では、『アメリカ史』の多元的な歴史記述、コンテクスチュアリズム(コンテクストによって意味や価値が変容すること)を分析している。第二章では、『モン・サン・ミシェルとシャルトル』のパラダイム・ヒストリー的な特質を、横断的に解明している。第三章では、『ヘンリー・アダムズの教育』の認識論的構図について分析した。

 第二部第一章は、『ヘンリー・アダムズの教育』から削除された二十年の空白部分について、伝記的な観点から考察したものである。アダムズの政治的活動、歴史研究、非西欧的な文化圏への旅について論じたものである。それによって、アダムズの作品の契機、背景等についても明確にした。また、第二章では、『ヘンリー・アダムズの教育』の南北戦争時代の記述の背景として、米英の外交的な駆け引きを中心に論じている。

 第三部は、主としてアダムズの『モン・サン・ミシェルとシャルトル』の横断的手法、およびこの作品の多様性と複雑性について詳細に述べたものである。第一章では、アダムズが主としてとりあげているシャルトル大聖堂(の図像)の意味や象徴性について考察した。第二章では、「マリア崇拝」を軸として、『モン・サン・ミシェルとシャルトル』を横断的に読解している。第三章は、この作品に示された中世文学史に焦点を絞って祖述したものである。第四章では、晩年のアダムズの「教育」(その現代性と予言性)にかんして記述している。

 以上のような章立ての本書は、ヘンリー・アダムズの全体像を解明した、わが国初の本格的な研究書であり、日本のアメリカ文学研究でこれまで必ずしも十分に考察されてこなかったヘンリー・アダムズの基礎的研究を目指したものである。

【目次】
序論 ヘンリー・アダムズの現代性
第一部 横断する知性
 第一章 重ね書きされた羊皮紙―アダムズの『アメリカ史』を読む
 第二章 教会を読むアダムズ―横断と切断
 第三章 〈近代〉を嗤う―ヘンリー・アダムズの「教育」
第二部 『ヘンリー・アダムズの教育』補記
 第一章 空白の(削除された)二十年
 第二章 海をへだてた南北戦争―ヘンリー・アダムズの「外交教育」の背景
第三部 中世のほうへ
 第一章 教会の解剖学―アダムズとシャルトル
 第二章 中世を「横断」する―「聖母マリア崇拝」を軸として
 第三章 ヘンリー・アダムズの中世文学史―『モン・サン・ミシェルとシャルトル』再考
 第四章 『ヘンリー・アダムズの教育』エピローグ―晩年の十年間
結びにかえて 世紀の変わり目―ある円舞
あとがき
ヘンリー・アダムズ主要参考文献
索引(人名・書名)

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