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野谷啓二 著 『オックスフォード運動と英文学』 開文社出版 2018

【梗概】

 本書は、19世紀前半のイングランドに起こったオックスフォード運動を起点として20世紀後半までの「カトリック文学」を考察する。16世紀の宗教改革以降、プロテスタンティズムとその文化規範は国民国家イギリスの創出・維持と不可分となり、英文学の主流作品のバックボーンであった。しかし18世紀の啓蒙運動は皮肉にも、その「鬼子」とも言うべき中世主義を産み落とす。19世紀半ば以降、中世主義という豊かな土壌から、カトリックの信仰文化に根差した文学が登場するようになった。イギリスのカトリック・ルネサンスである。

 本論考ではまず、オックスフォード運動とはどのようなものであったか、その実相を明らかにすることから始め、運動の中心人物で、最初の「カトリック知識人」となったJohn Henry Newmanの二つの小説と詩を解読し、中世主義の、あるいは反近代主義的エートスをJ.H. Shorthouseの歴史小説、つづいて20世紀前半のカトリック知識人を代表するG.K. ChestertonとHilaire Bellocの処女小説、そして第二次世界大戦後のカトリック社会を越えて広く一般読者層にも受け入れられたEvelyn Waughの小説、さらにアングロ・カトリック詩人T.S. Eliotの佳品の分析を通して探っていく。

 カトリック作家は、19世紀後半のカトリック教会復興期の護教的精神を受け継ぎ、教会の反近代主義の立場を擁護し、プロテスタント文化を批判、攻撃することを特徴とする文人である。彼らは反近代の価値をヨーロッパ中世に見出し、プロテスタント宗教改革を否定的に解釈し直し、彼らの時代の諸問題を解決する処方箋をカトリシズムに求めた。カトリシズムの特徴である秘跡が作品の重要な要素として取り込まれる。最終章では「カトリック文学」の特質について考察する。

 本書で取り上げられる作家たちの魅力は「十字架イメージ」にある。すなわち、人間的時空という横軸に超自然的なものの縦軸が交差する、その一点(エリオットの言う“The point of intersection of the timeless/With time”)のドラマを追及するところにある。世俗化の流れに抗したニューマンとその「子供たち」の実像に迫る。



目次

まえがき
1.カウンター・カルチャーとしてのオックスフォード運動
―――「カトリック」教会復興による「聖性」の追及―――
2.聖体を保存する教会―――ニューマンの小説『損と得』ロス・アンド・ゲイン―――
3.『カリスタ』に見られるニューマンの教会観
4.ショートハウスの『ジョン・イングルサント』にみるハイ・チャーチ信仰
5.カトリック者にとっての「死」
――ニューマンの『ゲロンシアスの夢』とスパークの『メメント・モリ』――
6.チェスタベロック現わる――『ノッティングヒルのナポレオン』と『エマニュエル・バーデン』
7.中世主義者としてのイーヴリン・ウォー
――『名誉の剣』にみられるカトリック信仰――
8.神の恩寵の現われとしてのマリア――T.S.エリオットの『マリーナ』――
9.カトリック文学とは何か
あとがき

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