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2022年5月6日

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著者名 書名 出版社 出版年
児玉富美惠著 『ジョン・キーツと理想の詩的世界――詩人たちからの受容と変容――』 音羽書房鶴見書店 2021

【梗概】
 本書はロマン派詩人であるジョン・キーツと過去の詩人たちとの影響関係を分析することによって、キーツの精神的形成過程とキーツの求めた理想の詩的世界を考察するものである。高等教育を受けていないキーツにとって、過去の詩人たちは詩作活動における師であったと言える。本書では、主にスペンサー、シェイクスピア、ミルトン、チャタトンを取り上げ、キーツ自身と彼の作品との関わりを分析している。そして特に、1819年9月21日の書簡でミルトン批判をしたあとの時期に注目する。この時期はあまり重視されず、論じられることも少ない。従って、キーツの最後の時期における詩的世界がどのようなものであったか、十分に解明されているとは言えない。キーツの関心がミルトンからチャタトンへ移ったあと、作品にはそれまでとは異なったキーツ独自の詩的世界、あるいは以前より進化した詩的世界が示されていることを論じる。
 本書は5章で構成されている。第1章の「キーツの「詩人」への目覚め」では、最初に当時の社会情勢を概観したあと、キーツが〈詩人〉を意識し始めた頃の関心の対象であったスペンサーの作品を分析し、この時期におけるキーツの詩作態度を探求する。第2章の「キーツとシェイクスピア」では、書簡や作品の中に示されたキーツのシェイクスピアへの思いを分析し、「消極的受容力」の思想の観点からも考察する。第3章の「キーツとミルトン――キーツの「驚異の年」を巡って・第1部――」では、キーツの「驚異の年」と言われる1818年9月から1819年9月までの作品に着目する。キーツのミルトンへの敬愛の念が作品、書簡から窺える一方、彼のミルトンから距離を置く姿勢も見受けられる。ミルトンからの決別は詩人としての転換点と位置付けることが可能であると論じる。第4章の「キーツとチャタトン――キーツの「驚異の年」を巡って・第2部――」では、「驚異の年」におけるミルトンからチャタトンへの移行期に注目する。キーツにとってのチャタトンの存在と「消極的受容力」の概念との関連性を論証する。第5章の「キーツの理想の詩人への挑戦――‘gradus ad Parnassum altissimum’ を求めて――」では、キーツの関心がミルトンからチャタトンに移ったあと、つまりキーツの創作活動における最後の時期の作品、史劇『スティーヴン王』と風刺詩『鈴つき帽子、または嫉妬』を分析する。これらの作品には、集大成としての要素が発見される可能性も考えられる。
 各章で検証してきた過去の詩人たちとの関わりは、キーツの詩作活動において、「消極的受容力」の思想を表現するために最も適したスタイルを模索する過程でもあった。キーツが過去の詩人たちを受け入れ、独自の詩的スタイルへと変容させる過程を考察したあと、これまであまり顧みられてこなかった1819年9月以降の最後のステージに着目することによって、「消極的受容力」の思想を表現するために求め続けた理想の詩的世界を明らかにしている。そして、最終的にキーツが目指した詩人像は如何なるものであるのかを結論付けている。


<目次>
序章

第1章 キーツの「詩人」への目覚め
はじめに
Ⅰ キーツの時代
Ⅱ キーツの育った環境
Ⅲ 「詩人」としての目覚め――キーツとスペンサー
Ⅳ キーツと「英国らしさ」 (‘Englishness’)
おわりに

第2章 キーツとシェイクスピア
はじめに
Ⅰ キーツのシェイクスピアへの敬愛の念
Ⅱ キーツの二つのソネットとシェイクスピア――『リア王』を中心に
Ⅲ 『エンディミオン』とシェイクスピア――『夏の夜の夢』と『あらし』を中心に
Ⅳ 「消極的受容力」とシェイクスピア
Ⅴ 「統轄者」 (‘the Presider’) としてのシェイクスピア
おわりに

第3章 キーツとミルトン――キーツの「驚異の年」を巡って・第1部――
はじめに
Ⅰ キーツのミルトンへの敬愛の念
Ⅱ 二つの『ハイピリアン』とミルトン――ミルトン的叙事詩への挑戦
Ⅲ 『レイミア』とミルトン
Ⅳ ミルトンからの決別とその理由
おわりに

第4章 キーツとチャタトン――キーツの「驚異の年」を巡って・第2部――
はじめに
Ⅰ チャタトンとロマン派詩人たち
Ⅱ キーツのチャタトンへの敬愛の念
Ⅲ ミルトンからチャタトンへの移行期――『聖アグネス祭の前夜』と『聖マルコ祭の前夜』を中心に
Ⅳ 『ハイピリアン』創作プロジェクトにおけるキーツの苦闘とチャタトン――二つの『ハイピリアン』と「秋に寄せて」を中心に
Ⅴ ミルトンの「脅威」からの解放とキーツの「驚異の年」――チャタトンの果たした役割
おわりに

第5章 キーツの理想の詩人への挑戦――‘gradus ad Parnassum altissimum’ を求めて――
はじめに
Ⅰ 史劇への挑戦――『スティーヴン王』
Ⅱ 風刺詩への挑戦――『鈴つき帽子』
Ⅲ 「パルナッソス山への階梯」 (‘gradus ad Parnassum’) としてのスペンサー
Ⅳ キーツが目指したもの――「秋に寄せて」の政治的解釈から読み解く
おわりに

結 章

引用・参考文献
あとがき
索引


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