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著者名 書名 出版社 出版年
金田法子 『ジェイムズ・ジョイス−人と思想』 清水書院 2016年

【梗概】

 20世紀の最も重要な小説家とも言われる作家ジェイズム・ジョイスは、1882年アイルランドの首都ダブリンに生まれ、『ダブリンの市民』、『若い芸術家の肖像』、『ユリシーズ』などの著者として西洋の文学界において揺るぎない地位を保っている。

ジョイスが生きた時代、アイルランドは未だ大英帝国の支配の下にあった。19世紀中葉には飢饉が度々襲い、首都ダブリンには飢えと窮乏に苦しむ人々が溢れ、そこは「ヨーロッパの中で最も不健康な都市」と言われた。

当時、ダブリンでは住民の約9割をカトリック教徒が占め、教会と人々とは密接不可分の関係にあった。人は誕生すると教会で洗礼を受け神の子となる。神の御言葉の伝達者である司祭の言葉に導かれ、日々の行動を省み、罪の認識があるのであれば、それを司祭に告白し悔い改め、赦しを請う。結婚の際には司祭から祝福を受け、死の際には司祭から「終油」をいただき神の世界への導きを得る。このように、生を受けた時から死に至るまで、教会の介在なしに人々が生活を営む事は事実上不可能な仕組みが作られていた。

ジョイスは、そうした教会の存在を人々の魂を戒めようとする実体と捉え、「アイルランドの敵」であると糾弾し、1904年、22歳の時にイギリスやカトリック教会に「支配されていた」祖国から、自由な表現をしたいと「自発的亡命」を遂げた。その後、当時オーストリア領であったトリエステに渡り、さらにチューリッヒ、そしてパリに移り、58歳で没するまでの3度の短期間の帰国を除き、常に海外に身を置き執筆を続けた。

ジョイスは自身の全ての作品の舞台として、一貫して故郷の首都ダブリンを定め、真実を描くことこそ作家の使命であるとし、そこに生きる人々の、自然で、ありのままの姿を映し出そうと執筆に邁進した。後になっては、英語で全てを表現するのは困難と、新たな言語や文体の創造を試みる。

本書では、厳しい貧困や眼病、娘の精神の病の発症など様々な困難と戦いながら生きたジョイスの生涯を辿り、彼の語るアイルランドの歴史を紐解きながら、人間ジョイスを考え、その思想の背景を探っていく。さらに、後世の文学者に多大な影響を与えたジョイスの用いた「意識の流れ」、「内的独白」といった文学手法とはどのようなものであったのか、ジョイスはなぜそうした手法を用いたのか、それはジョイスにとってどのような効用があり、彼の文学にどのような効果をもたらしたのかについても論述を行う。

【目次】
はじめに
I. ジョイスの生涯
 1. 家系
 2. 誕生〜幼少期
 3. 小学校時代 ― 教会への反発の素地の確立
 4. 中学校・高校時代 ― 教会への反発から憎悪へ
 5. 大学時代
 6. 大学卒業以降
 7. 自発的亡命
 8. 作家ジョイスの誕生 ― 『室内楽』
 9. 『ダブリンの市民』 ― 発刊
 10. 著名作家へ ― 『若い藝術家の肖像』
 11. 世界的作家へ ― 『ユリシーズ』
 12. 『ユリシーズ』以降
U.ジョイスの文学作品・文学手法
 1.  文学作品
  1) 『ダブリンの市民』(Dubliners)
  2) 『若い芸術家の肖像』(A Portrait of the Artist as a Young Man)
  3) 『ユリシーズ』(Ulysses)
  4) 『フィネガンズ・ウェイク』(Finnegans Wake)
 2.文学手法
      「意識の流れ」・「内的独白」
 3. 文学に対する姿勢
      ジョイスと実証主義
III.ジョイスとアイルランド史 ― 概観
 1. 古代から19世紀まで
 2. 19世紀以降のアイルランド

あとがき
年譜

参考文献
引用(参考)文献の表記方法
写真提供
さくいん

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