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編著者名 書名 出版社 出版年
三石庸子・井川眞砂(他) 『アメリカ文学と革命』 英宝社 2016年

【梗概】

 アメリカ革命は第一義的には、一八世紀末に北米植民地住民が英国からの分離独立をめざして武力に訴えた政治行動を指すが、じっさいは植民地時代にそれにいたるまでの長い過程があった。また、建国後も、革命の課題の解決は一夜にしてなったのではなく、国の内外に多くの問題を抱えた不安定な新興国から世界随一の強国になるまでに多くの紆余曲折があって、ジャクソニアン・デモクラシーや南北戦争などの二次的な革命を含め、今日にいたるまで長い革命の過程にあるともいえる。アメリカ文学はこの長年にわたる激動のなかで、それに反応しながら形成されてきたと見なければならない。
 アメリカ革命後、その影響のもとフランス革命が始まり、一九世紀前半には、フランスをはじめとするヨーロッパにおける一連の革命が起こったが、アメリカ人はこれらの革命を自国の革命と暗に照らし合わせながら注視し、反応してきた。その後の諸外国における革命に際しても、米国は自国の運命を重ねて肩入れし、ときには直接的に干渉してきたが、革命権を是認し、王制や独裁を排斥して自由や民主主義の原理を称揚する革命的言辞を振りかざすかと思えば、暴徒やテロへの恐怖に震撼し、法と秩序の回復をめざして世界の憲兵を任ずるという、革命に対するアンビヴァレントな態度を見せてきた。そのために、革命擁護と革命批判の絡み合いが米国における革命論の重要なコンテキストをなすにいたった。さらに、一方ではあれほど革命を恐れているように見えるアメリカ社会が、他方では科学技術革命とか、情報革命とか、ファッション革命とか、革命という言葉を偏愛しているのは、レトリックとしてどのような効果をもたらしているからなのかという問題も考察できるはずである。
 アメリカ文学はアメリカ合衆国の存在を前提に成り立っているが、合衆国はアメリカ革命の産物として歴史に登場してきた。革命によって成立した国家としては、今や世界最古の共和国である。世界史における米国のユニークさに対応して、アメリカの多くの作家たちは自分たちの国家社会のあり方に対する自意識がきわめて強く、革命の成果を死守しようとする姿勢においてかつてのソ連などの新しい革命国家に引けをとらないという観察がなされてきた。
 しかし、このいうまでもない事実がアメリカ文学に何をもたらしたのかという問題は、これまであまりきちんと討究されてこなかったように思われる。本書は、革命によって生まれた国の国民文学であるという出生の事情がアメリカ文学に独自の性格を与えたにちがいないという仮設に立って、アメリカ文学の独自性を浮かび上がらせ、また、このような観点から個別の作家、作品にこれまでになかった読解を施すという目標に迫ろうとするものである。
(本書は、平成28年度日本学術振興会科学研究費補助金学術図書を受け、出版された。)

【目次】
序説                                村山 淳彦

『開拓者たち』――未完の反革命と二つの友愛             武田 宜久

ポーと「革命」の表象                        水戸 俊介

「島めぐり移動シンポジウム」と革命の主題――『マーディ』再訪    福士 久夫

『緋文字』――へスター・プリンの変容に見るホーソーンの革命観    煖エ 和代

一九世紀の交通革命と通信革命 ――エミリィ・ディキンスン、鉄道、電信  吉田 要

カラーラインと闘った解放奴隷、ジュビリー・シンガーズ        寺山 佳代子

『コネティカット・ヤンキー』とトウェインの「革命願望」       井川 眞砂

映画による反革命――『国民の創生』と歴史、人種、メロドラマ     後藤 史子

『誰がために鐘は鳴る』と革命                    村山 淳彦

レイシズムの向こうへ――黒人革命とチェスター・ハイムズ       三石 庸子

『Xのアーチ』におけるもうひとつの「アメリカ」と核の想像力     木下 裕太

あとがき         アメ労編集委員会 井川眞砂・福士久夫・三石庸子・村山淳彦

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