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著者名 書名 出版社 出版年
大地真介著 『ウィリアム・フォークナーのヨクナパトーファ小説--人種・階級・ジェンダーの境界のゆらぎ』 彩流社 2017

【梗概】

本書は二部構成であり、第I部「ヨクナパトーファ小説における旧南部解体」では、フォークナーの代表作とそうでない小説とはどのように違うのか、なぜ彼の代表作が優れているといえるのか、彼の小説の特質は何かということを、フォークナー文学の中枢である〈ヨクナパトーファ・サーガの長編小説〉を取り上げて技法とテーマの観点から解明する。フォークナーの代表作・最高傑作は何かと問えば、むろん様々な意見があるだろうが、『響きと怒り』、『八月の光』、『アブサロム、アブサロム!』、『行け、モーセ』というのが定説であり、これらの小説は、フォークナーの作品の中でも特に複雑かつ難解だが、この四作品を一言で説明するならば、次のようになると筆者は考える。これらの小説においては、南北戦争での敗北によってアメリカ南部で劇的に引き起こされた〈人種・階級・ジェンダーの境界のゆらぎ〉、すなわち〈貴族階級の白人男性層という旧南部社会の基盤、、解体、、〉が主要なテーマであり、そのテーマと連動する形で、技法において、〈ストーリー〉の基盤、、、すなわち〈ストーリー〉の時間と空間が劇的に解体、、されており、旧南部の基盤、、解体、、のテーマが、〈ストーリー〉の基盤、、解体、、する技法によって強化されている。この筆者の考えを、第1章では『響きと怒り』、第2章では『八月の光』、第3章では『アブサロム、アブサロム!』、第4章では『行け、モーセ』に関して論証する。また、旧南部解体のテーマに直接関係することであるが、没落貴族の跡取りであるがゆえに旧南部の崩壊を嬉々として受け入れられなかったフォークナーが、上記の四作品の執筆を通じて自身の問題点、そして南部貴族だった曽祖父の問題点を直視していった過程についても論じた。

 本書の第II部「フォークナー文学と現在/日本」では、第I部で明らかにするフォークナーの小説の特質に関してさらなる考察を加える。具体的にいえば、第I部の論考を踏まえたうえで第II部においては、フォークナー文学が現代の世界的な文学や映画に多大な影響を及ぼしていることを指摘し、また、日本人がフォークナー文学を読んだり研究したりすることの意味について論究する。フォークナーが、ガブリエル・ガルシア=マルケスに代表されるラテン・アメリカの作家、トニ・モリソン、大江健三郎、中上健次らに及ぼした影響に関しては既に研究しつくされた感がある。そこで、第5章では今日の世界的な小説家である南部作家コーマック・マッカーシーに与えたフォークナーの影響を、第6章では今日世界の映画界をけん引する映画作家クエンティン・タランティーノ、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ、ギジェルモ・アリアガへのフォークナー文学の影響を指摘する。第7章では、フォークナーと横溝正史の小説を比較検証することにより、アメリカ南部と日本が同じジレンマを抱えていることを論じる。第8章では、日本におけるアメリカ文学研究を確立した大橋健三郎がフォークナー研究に至った理由を探ることにより、日本人がフォークナーを研究することの意味を考察した。

【目次】


第I部 ヨクナパトーファ小説における旧南部解体
第1章 虚飾からの覚醒----『響きと怒り』
  1.〈ストーリー〉の時空を解体する技法
  2.貴族階級の白人男性層の解体
  3.『響きと怒り』と『土埃にまみれた旗』の技法とテーマ
  4.『土埃にまみれた旗』との違いの原因
  5.ディルシーの不動性と忍耐力
第2章 旧南部への直視----『八月の光』
  1.『死の床に横たわりて』、『サンクチュアリ』、『八月の光』の技法とテーマ
  2.実は白人でありたいジョー
  3.旧南部に執着するジョーとハイタワー、不動性と忍耐力を持つ貧乏白人プア・ホワイトリーナ
  4.ハイタワーの祖父とフォークナーの曽祖父
第3章 南部貴族の起源----『アブサロム、アブサロム!』
  1.典型的な南部貴族の始祖
  2.『征服されざる人びと』との密接な関係
  3.『アブサロム、アブサロム!』と『征服されざる人びと』の技法とテーマ
  4.サートリス家とフォークナー家
  5.フォークナーの曽祖父とトマス・サトペンの問題点
  6.南部貴族の脱神話化
第4章 南部貴族の重罪----『行け、モーセ』
  1.『墓地への侵入者』との共通点
  2.『行け、モーセ』と『墓地への侵入者』の技法とテーマ
  3.没落貴族フォークナーの苦境
  4.フォークナーの曽祖父と老キャロザーズの罪
  5.アイクと大原生林ウィルダネスの母性
  6.作家フォークナーの全盛期と晩年

第II部 フォークナー文学と現在/日本
第5章 フォークナーと現代アメリカ南部作家----コーマック・マッカーシー
  1.西部ではなく南部の作家マッカーシー
  2.『老人の住む国にあらず』と『サンクチュアリ』における〈父〉の不在
  3.国境の劇的なゆらぎ
  4.複雑化する南部
第6章 フォークナーと現代映画作家----クエンティン・タランティーノ、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ、ギジェルモ・アリアガ
  1.フォークナーと映画
  2.タランティーノ作品における〈ストーリー〉解体の技法と〈父〉不在のテーマ
  3.イニャリトゥとアリアガの技法とテーマ
  4.タランティーノとイニャリトゥ/アリアガの相違点
  5.三人の映画作家の近年の作品
第7章 アメリカ南部と日本のジレンマ----横溝正史
  1.ヨクナパトーファ・サーガと金田一耕助サーガ
  2.『響きと怒り』と『本陣殺人事件』の類似性
  3.金田一耕助とは何者か?
  4.クエンティンと一柳賢蔵のジレンマ
第8章 日本におけるアメリカ文学研究の確立----大橋健三郎
  1.アメリカに対する思い
  2.日本、スタインベック、フォークナー
  3.日本人がアメリカ文学/フォークナーを研究するということ


あとがき
引用文献
索引

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